【不妊治療保険適用③】 先進医療って何? 先進医療になる項目、注意点は?
4月からスタートされた不妊治療の保険適用。保険診療、先進医療、自費診療…様々な言葉が並び、混乱している当事者も少なくありません。
先進医療は、特にクリニックを選ぶうえでは考慮してほしい内容です。
先進医療と保険診療は何が違うの?
先進医療と保険診療は同時に行えるの?
先進医療を考えたクリニックの選び方などをこの記事では解説していきます。
記事の内容
先進医療とは?
先進医療A 先進医療Bとは
先進医療は保険診療+自費診療が可能
先進医療が行えるクリニック
クリニック選びの際の注意点
*この記事は厚生労働省の資料を基に作成しています。(2022年3月25日 追加変更確認済み)
先進医療とは?
日本の保険診療では自費診療と保険診療の混合診療が認められていません。そのため、ひとつでも自費診療があると保険で診療できず全額自己負担となってしまいます。ただし先進医療に指定されている項目に関しては、指定の医療機関であれば保険診療と併用することが可能です。
今回の不妊治療の保険適用においても保険適用されなかった項目のうちいくつかが先進医療項目として指定されています。また現在検討中の項目もあります。先進医療に指定された項目に関しては指定医療機関であれば、混合診療扱いにならずに保険診療と一緒に選択することが出来ます。
先進医療として現時点で認められている項目
先進医療A
PICSI
タイムラプス
子宮内細菌叢検査 (EMMA/ALICE)
SEET法
子宮内膜受容能検査 (ERA)
子宮内膜スクラッチ
IMSI
先進医療B
現時点で認可されている項目はない
タクロリムス投与療法が先進医療Bとしての保険との併用を「条件付き適」とする方針が決定(4月18日)
現在先進医療項目とするかどうか検討中の項目
先進医療A 審議中
子宮内細菌叢検査 (子宮内フローラ)
二段階胚移植法
子宮内細菌叢検査に関しては、同じ検査名でも検査方法が違うと先進医療項目ではないので注意が必要。現時点で子宮内細菌叢検査 で先進医療が可能なのはEMMA/ALICEだけになります。
先進医療B 審議中
PGT
反復着床不全に対する 投薬(タクロリムス)
こちらの項目に関しては審議中の為、現時点では保険診療と一緒に行うことが出来ない。
*4月18日、厚生労働省の先進医療技術審査部会はタクロリムス投与療法について、先進医療Bとしての保険との併用を「条件付き適」とする方針を了承しました。ただ先進医療Bのため、実施できるクリニックは限られることになります。詳細が分かり次第追記していきます
保険診療も先進医療も検討されていない項目
現時点では以下の項目に関しては、保険診療も先進医療も検討されていません
第三者の精子・卵子等 を用いた生殖補助医療(AIDも含む)
独身時の卵子凍結からの一連の不妊治療
がん生殖医療に関わる妊孕性温存とそれら一連の不妊治療
上記以外にもPRP療法やPFC-FD療法なども保険適用外項目であり、先進医療項目からも外れています。ビタミンD検査や銅亜鉛検査、精子のDNA断片検査や一部の排卵誘発方法に関しても保険診療では行うことは出来ません。
これらの治療方法を望む場合は全額自己負担になります。
先進医療A 先進医療Bとは?
先進医療は先進医療Aと先進医療Bに区分されていますが、AとBはどのように違うのでしょうか?
先進医療Aとは
1 未承認等の医薬品、医療機器若しくは再生医療等製品の使用又は医薬 品、医療機器若しくは再生医療等製品の適応外使用を伴わない医療技術 (4に掲げるものを除く。)
2 以下のような医療技術であって、その実施による人体への影響が極めて小さいもの(4に掲げるものを除く。)
(1)未承認等の体外診断薬の使用又は体外診断薬の適応外使用を伴う 医療技術
(2)未承認等の検査薬の使用又は検査薬の適応外使用を伴う医療技術
(3)未承認等の医療機器の使用又は医療機器の適応外使用を伴う医療 技術であって、検査を目的とするもの
先進医療Bとは
3 未承認等の医薬品、医療機器若しくは再生医療等製品の使用又は医薬 品、医療機器若しくは再生医療等製品の適応外使用を伴う医療技術(2 に掲げるものを除く。)
4 医療技術の安全性、有効性等に鑑み、その実施に係り、実施環境、技術の効果等について特に重点的な観察・評価を要するものと判断される
人体の影響が極めて少ないもの(検査類)は先進医療A、人体の影響がある程度あるもの(投薬等)は先進医療Bに分類されているようです。この先、先進医療Bが認可されても先進医療Aより実施条件が厳しくなるため、一定規模のクリニックでないと行われない可能性があります。
先進医療Bとして認可されるまでには一定の期間を要すると推察されます。また、先進医療Bは一般の新規医療と同様の先端的医療に関する研究ですので実施が認められる医療施設はごく少数で登録できる症例も限られ、事前の予定症例数を超えることは原則的に出来ません。その有効性を統計学的に証明できなければ保険収載は不可となり、有効性を証明出来ても保険収載には相当期間を要します。(日本産婦人科学会より)
https://www.jsog.or.jp/modules/news_c/index.php?content_id=105
先進医療Bに関しては産婦人科学会から上記のような文章が出されており、実施できるクリニックはかなり限られることが予想されます。
ただ先進医療Bの技術を必要としている人は多くいます。
不妊治療は通院回数も多く、何時間もかけて先進医療Bが可能なクリニックまで通院することが困難なことも少なくありません。通院の難しさから治療を諦めてしまう人が出ないような制度設計がされることを願うばかりです。
先進医療は保険診療+自費診療が可能
先進医療は自費診療になるため、保険診療と併用が出来ないと思われている人もいますが、先進医療が行えるクリニックで治療を受けた場合は、保険診療と併用することが可能です。
この場合
保険診療(3割負担)+先進医療費(全額負担)になります。
また先進医療の場合、治療にかかる費用が決められているわけではないため、費用はクリニックによって変わってきます。
先進医療が行えるクリニック
先進医療A 施設基準
専ら産婦人科、産科、 婦人科又は女性診療科 に従事し、当該診療科 について五年以上の経験を有すること。産婦人科専門医であり、かつ、生殖医療専門医であること。
既評価技術(先進医療Aとして告示された医療技術)を実施するためには、各医療機関から所管厚 生(支)局へ届出を行う必要があります。
先進医療Aに関しては生殖医療専門医がクリニックに在籍しているのが必須となります。
保険診療のように令和4年9月30日まで経過措置はないため、4月20日までに届け出が完了していないクリニックでは医師の条件を満たしていても先進医療を行うことが出来ません(自費診療の場合は別)
各項目の条件
項目ごとに下記の条件を満たす必要があります。これらの条件を満たしていないと先進医療を行うことは出来ません。
ヒアルロン酸を用いた 生理学的精子選択術
当該療養について二年以上 の経験を有すること。
主として実施 する医師として十例以上の症例を実施していること。
PICSI タイムラプス 子宮内細菌叢検査 子宮内膜刺激術(seet法)
主として実施 する医師として十例以上の症例を実施していること。
子宮内膜受容能検査 子宮内膜擦過術
主として実施 する医師として5例以 上の症例を実施していること。
クリニック選びの際の注意点
先進医療を受けるためには、
・生殖医療専門医が在籍しているクリニック
・各項目の条件を満たしている
・4月20日までに届け出が完了していること
この3つの条件が必須となります。
体外受精を行っているクリニックであればどこでも受けられるわけではないことに注意が必要です。
先進医療は保険診療と並行して行える検査や治療の選択肢ですので、移植6回までの間に(保険診療回数の上限)上手く組み入れていく事をお勧めします。
とはいえ、全国を見渡すと生殖医療専門医の在籍にはばらつきがありますので、近くに先進医療が可能なクリニックがあるかどうかでも治療の進め方が変わってきます。
まずは通院を考えているクリニックで先進医療が可能かどうかを確認してみてください
各都道府県、生殖医療専門医が在籍しているクリニック数
生殖医療専門医在籍クリニック数 1件のみ
富山 石川 長野 香川 佐賀
生殖医療専門医在籍クリニック数 2件のみ
青森 岩手 秋田 福井 奈良 和歌山 徳島 長崎 大分 宮崎
生殖医療専門医在籍クリニック数 3件~5件
山形 福島 栃木 山梨 岐阜 鳥取 島根 山口 愛媛 高知 熊本 沖縄
生殖医療専門医在籍クリニック数 6件~9件
宮城 茨城 群馬 埼玉 新潟 三重 静岡 京都 滋賀 岡山 広島 鹿児島
生殖医療専門医在籍クリニック数 10件以上
北海道(15件) 千葉(12件) 東京(71件) 神奈川(18件) 愛知(28件) 大阪(29件) 兵庫(11件) 福岡(13件)
地方の場合元々のクリニック数が少ないということもあり、先進医療まで考えるとさらに選べるクリニックが減ってしまう傾向があります。また京都府のようにそもそも体外受精が可能なクリニックが一部の地域に偏っているという県も少なくありません。
このような場合、転院のタイミングなどもあらかじめ考えたうえでクリニックを選ぶ必要が出てきます。
先進医療が可能なクリニックが近くにある場合
先進医療が可能なクリニックが通院1時間以内にあれば、最初のクリニック選びの段階で先進医療が可能なクリニックを選ぶことをお勧めします。
最初から先進医療が可能なクリニックであれば、先進医療項目も視野に入れながら治療計画を立ててもらう事も可能ですし、先進医療のために途中で転院する必要もありません。
東京都内や横浜、名古屋、大阪などであれば、生殖医療専門医在籍クリニックの数も多く、その中から自分に合うクリニックを選ぶことも可能です。ただ地方の場合は、近くにある先進医療が可能なクリニックが必ずしも自分に合うとは限りません。
そのような場合は何を優先するかを考えながらクリニックを選ぶことになります。
先進医療が可能なクリニックが近くにない場合
とはいえ、先進医療が可能なクリニックを通院1時間以内で選べる地域は極々一部です。
その場合は通院時間を優先するのか?少し遠くても先進医療が可能なクリニックに通院するのかをまずは考える必要があります。
ただ先進医療が可能ではないクリニックを受診した場合、どこかのタイミングで転院を考える必要が出てくることは知っておいてほしい点です。
保険診療での移植は6回までです。良好胚を数回移植しても妊娠に至らない場合は、保険診療で移植出来るうちに先進医療項目の治療を検討することをお勧めしています。
先進医療が出来ないクリニックに通院の場合、数回の移植後に医師が先進医療の可能なクリニックに転院を促してくれればいいのですが、そうでない場合は自分で転院のタイミングを考えクリニックに申し出る必要が出てきます。
今までは不妊治療の場合は紹介状がなくても転院出来ましたが、今後は保険回数の確認も踏まえて紹介状を求められるクリニックも出てくる可能性があります。
転院などの一連の手間を考えると少し遠くても最初から先進医療が可能なクリニックを選ぶのも一つです。
特に保険診療での移植回数が3回までになってしまう40歳以上の場合は、通院に時間がかかっても先進医療が可能なクリニックを最初から選んでおいた方が、結果的に保険診療内で妊娠できる可能性が高くなるのではないかと思います。
先進医療が可能なクリニックが近くにない地域に関しては、先進医療が可能な大学病院などと地域のクリニックが連携して先進医療まで受診しやすい環境を整えていってほしいと願わずにはいられません。
先進医療は保険診療と一緒に行うことが可能ですが、まだまだ情報が正しく伝わっていないと感じることが多々あります。先進医療項目を踏まえた治療計画を考えてクリニックを選ぶようにする必要があります。また通える範囲内に先進医療が可能なクリニックがない場合は治療計画立案のタイミングで医師と先進医療項目についてきちんと話し合っておく必要があります。
参考情報
厚生労働省HP
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/boshi-hoken/funin-01.html
指定医療機関
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000047346.html
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