2022年 不妊治療保険適用初年を振り返って

2022年不妊治療保険適用

2022年4月よりスタートした不妊治療の保険適用。スタートから9ヶ月が過ぎましたが、現時点での振り返りを綴っていきます。

私はクリニックに勤務しているわけではありませんので、あくまでも外からみた一つの意見としてお読みいただければと思います。

 

不妊治療保険適用スタートにおける所感

 

正直、かなりの混乱からスタートしたように感じています。後術しますが、SNSでは真偽定かではない情報も飛び交い、また直前まで一部の関係者による保険適用に関する否定的な意見が散見されていました。

これらの声が結果的に、「自由診療より保険診療の方が劣るのではないか」という印象を、保険適用開始時に一部の当事者に植え付けてしまったのではないかと感じることが何度かありました。

ただこれらの混乱は、保険診療に前向きに取り組んでくださる関係者の方々の発信もあり、徐々に下火になっていき、その後、保険診療でも保険適用前と何ら変わらない治療成績が、一部のクリニックを除いては出せているという報告もみかけるようになりました。

当初は薬剤の使用回数や方法に制限がかかり思うように治療が進められないのではとの声もありましたが、こちらも追加で承認され、よほど特殊な使用方法等ではない限りは特に大きな混乱はなかったのではないかと思います。(ただし薬の供給不足という別問題が生じていますが…)

もちろん、多くの医療機関の苦労や心労(保険が通るかどうか)あっての結果ですが。

また、今までオプションで行われていた検査なども多くは先進医療として受けられるようになりました。

個人的には、保険診療、先進医療など標準治療が明文化されたことで、保険適用前よりは治療が選択しやすくなったのではないかと感じています。とはいえ、次回改定に向けて課題がまったくないわけではありませんが…

 

不妊治療費負担増の報道に思う事

 

今までは助成金があったものの、治療費は基本クリニックに任せの全額自己負担でした。その点からも、保険診療で3割負担プラス高額療養費制度の対象にもなるということから、かなりの負担軽減につながるのではないかと期待していました。

実際に6割以上の人が負担減になったというアンケート結果もありましたが、一部では負担増になったという報道もありました。ただ私が目にした範囲では、どのような内訳で負担増になったのかは詳しく説明されてはいませんでした。

そこでどのような場合に負担増になるのか?いくつかの可能性を考えてみました。

 

①保険診療の適用外になった場合

今までは細かな治療内容は問われずに一律の助成金が出ていたため、PGTAなど保険診療外の治療を選択する場合は負担増になります。

 

②クリニックが自費診療分の価格を上げた

年齢のため保険が使えない場合、クリニックの治療値上げが影響してくることになります。

 

③40万の助成金使用後に保険診療に切り替わった

2021年は保険診療開始までのつなぎ期間ということもあって、暫定的に1回目の助成金が30万から40万にあがりました。そのため、40万の助成金使用後に保険診療に切り替えた場合は、費用があがる場合が出てきます。

ただし、2回目以降の助成金は30万のため、その金額をもとに計算する必要があります。また保険診療開始がなければ、2回目以降の助成金は15万しか出ていなかった事を念頭に比較する必要があります。

 

④成功報酬型のため治療費用が安く抑えられていた

成功報酬型の場合、妊娠に至らなかった場合は費用が抑えられていた点と、保険適用では成功報酬型の治療が出来ないため、保険診療の方が高くなる場合があります。

 

様々な可能性を上げてみましたが、負担増になったという点だけを取り上げるのではなく、何が原因で負担増になったのか分析することが重要です。

そのうえで保険診療や先進医療への追加が必要なのか、それとも追加の助成金が必要なのかはきちんと検討し、次回の改正に向けて声をあげていく必要があるのではないでしょうか?

 

不妊治療保険適用から見えてきた課題

 

ここからは不妊治療の保険適用から見えてきた課題点や、次回の改定に向けて議論が必要だと思う項目について書いていきます。

 

先進医療における地域格差

あまり話題にあがることはありませんが、先進医療における地域格差は大きな課題の一つだと感じています。

先進医療を行う条件のひとつに「生殖医療専門医が在籍していること」という条件があります。確かに不妊治療は日進月歩の技術であり、生殖医療専門の医師が行うことが望ましい治療です。

実際に保険適用前から、クリニック選びの時には、クリニックが選べる地域であれば生殖医療専門医がいるクリニックを選ぶことをお勧めしていました。

とはいえ、生殖医療専門医が選べるぐらい在籍しているクリニックがあるのは、極々一部の地域に限られています。ただ保険適用前であれば、「出来れば…」の範囲でのお勧めで済んでいました。

しかし先進医療という枠組みが出来てからは、そう言うわけにはいかなくなりました。先進医療の項目を選択しようとすれば、県外のクリニックまで通院しなければならない地域も出てきます。県外への通院となると、交通費などの問題もありますが、働いている場合、仕事との両立がより難しくなってしまいます。

地方の課題のため、なかなか大きく取り上げられることはありませんが、治療の地域格差解消への動きも今後必要だと感じています。そして少しでも多くの人がその問題に目を向けてくれればと願うばかりです。

 

年齢制限と回数制限

不妊治療の保険適用に関して、年齢制限と回数制限は助成金時代の条件がそのまま適用される形になりました。

そのため、不妊治療の保険適用の全貌がわかった時には様々な声があがりました。その中でも40歳以上の治療回数が減る事、43歳以上は保険診療が受けられないことに関しては否定的な意見も多く聞こえてきました。

この点に関しては、再度議論する必要性があるのではないかと感じています。医療機関側は43歳以上の不妊治療も積極的に行っています。この時点で大きな矛盾が生じているように思えます。医療機関側が43歳以上の不妊治療にそれなりの意味を成していると考えるのであれば、年齢制限や回数制限の引き上げを訴えるべきではないでしょうか?

とはいえ、闇雲に年齢制限や回数制限撤廃や引き上げには正直賛同出来ません。

年齢制限と回数制限を撤廃したり引き上げたりするのであれば、不妊治療のやめ時をどう医療側でサポートするのかという課題にもしっかりと向き合うことが必要です。

そうしなければ、いつまでたっても治療のやめ時が見つけられず、不妊治療という暗闇の中を彷徨い続けることにもなりかねません。また同時に卵子提供についても議論の必要性があるのではないでしょうか?

 

メンタル面へのサポート

年齢制限と回数制限ところでも触れましたが、不妊治療のやめ時も含めて、今の不妊治療の現場ではまだまだメンタル面や情報提供面でのサポートは十分だとは言えません。

不妊治療が保険診療になってもほぼ変化がなかったのがこの「カウンセリング」の部分ではないでしょうか?カウンセリングに保険点数が付かないため、医療機関としても取り組みにくいという点もあるかとは思います。

ただ治療スタート時から治療終結までの期間、治療情報の提供も含めて、随時相談出来、カウンセリングを受けられる仕組みは今後ますます必要になってくるのではないかと考えていいます。

 

今後の改定に向けて

・貯卵が出来ない
・採卵個数と保険点数の関連
・静脈麻酔が使いにくい(保険点数の関係上)
・精子凍結等男性不妊への対応
・PGTAについて
・第三者提供の課題

などは次回改訂時に議題にあげていただきたい課題の一つです。この点に関しては、また別記事で詳しく述べていきます。

 

混乱する情報への対応

 

不妊治療の保険適用スタート時は、医療機関側はもちろんのこと、当事者側でもかなり大きな混乱が見受けられました。

特にSNS上では様々な情報が飛び交い、それが大きな混乱を招いていました。特にひとつのクリニックの方針が、あたかも国が発表した方針であるかのように捉えられ、それが拡散されてしまう状況が何度も発生していました。

医療機関側が患者さんにどのように伝えたのかはわかりませんが、文章ではなく口頭で患者さんに変更を伝える危うさも感じました。

保険診療に関わる大きな変更に関しては文書で伝えるのが基本です。厚生労働省や学会等であれば通達という形で伝えられるでしょうし、クリニックはその通達文書をもとに院内掲示、もしくはホームページに記載というのが適切な情報の伝え方なのではないかと思います。

保険診療になれば、もう少し治療方針がわかりやすくなるのではないか?クリニックごとの治療方針の差がなくなるのではないか?そう考えた人も少なくなかったと思います。

しかし、残念ながらふたをあけてみれば、逆にクリニックごとの方針の違いが患者の混乱を招く結果となってしまいました。

どこまで保険診療でするのかの線引きは各医療機関に任されています。そのため、本来なら保険診療で可能な内容も、あえて自由診療で行っているクリニックもあります。

患者側はひとつの医療機関の方針を鵜呑みにするのではなく、保険診療ひとつとっても様々な方針があることを理解したうえでクリニックを選ぶ必要があります。

ただクリニック選びの最初の選択としては、保険診療で出来る限りの手を尽くしてくれるクリニックを選ぶことを私はお勧めしています。あえて最初から保険診療外の医療機関を選ぶ必要はないでしょう。

治療を繰り返していくうえで、どうしても保険診療内では難しくなった時に、保険診療外の治療を選択するかどうかを考えてみてください。

 

最後に

 

保険診療が始まってからの9ヶ月を簡単に振り返ってみましたが、いかがでしたでしょうか?

不妊治療の保険診療は始まったばかりです。中には思っていたものと違ったという人もいるでしょう。なぜこんなルールが?と思うものもあるかと思います。ただ、このルールや決まりがずっと続くわけではありません。今ある問題点や課題は次回改定時に見直してもらうことも可能です。

患者・医療機関双方にとって利用しやすい保険内容になるように、引き続き微力ながら声をあげていきたいと考えています。

 

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