【卵子凍結という選択肢①】卵子凍結を考える時に知っておきたい卵子凍結の課題とは

卵子凍結 課題

2023年9月05日 追記・編集

私が「卵子凍結」という言葉をしっかりと認識したのは多分2015年の千葉県浦安市での卵子凍結助成事業の時でした。
一時期は盛り上がりをみせた「卵子凍結」でしたが、その後はあまり話題に上がる事もなく、浦安市の卵子凍結助成事業も2018年に終了となりました。

しかしここ2~3年ぐらいでしょうか、積極的に「卵子凍結」を行うクリニックが増えてきました。

また東京都では働く女性のライフ・キャリアプラン応援事業として、職場での卵子凍結に関する正しい知識の普及や仕組みづくりを支援する取り組みを2023年から始めています。

私自身もご相談中に「卵子凍結」の話が上がる事もあれば、「卵子凍結」そのもののご相談を受ける事も増えてきました

様々な意見が飛び交う「卵子凍結」。
安易に「卵子凍結」しておけば・・・とは勧められませんが、メリット・デメリットを知った上で選択肢の一つとして知っておいても損はありません。

卵子凍結を行っているクリニックのセミナー等ではどしてもメリットが強調されがちなため、この記事では卵子凍結が抱える課題を中心に、卵子凍結という選択肢をどう考えれば良いのかをお伝えしていきます。

 

 

卵子凍結の課題① 妊娠が保障されているわけではない

20代で卵子凍結をしたからと言って将来妊娠できる保証はどこにもありません。
10個凍結しようが、20個凍結しようが、30個凍結しようが・・・100個凍結しようが、残念がら100%妊娠できるとは言い切れないのです。

凍結する卵子数の目安もありますが、あくまでも目安にしか過ぎません。
また現時点では欧米諸国のデータが中心であり、日本人やアジア諸国の人を対象としたデータはない点にも注意が必要です。

卵子凍結は未受精卵凍結の為、その先には卵子と精子と受精させて、受精卵を育てて、子宮に戻すといういくつもの過程が残っています。

妊娠の陽性反応が出たら後は出産を待つのみではありません。
その先も妊娠の継続というステップが待っています。その間に残念ながら、流産や死産を経験する事だってありますし、不育症と診断されることもあります。ただこれらは妊娠してみないとわかりません。

不妊の原因に卵子の老化(女性の年齢)が挙げられることが多いですが、決して不妊の原因は女性の年齢的な問題ばかりではありません。
当たり前ですが、男性の精子に問題があることもあります。受精に適した精子が見つからない場合もあるでしょう。受精卵が育たない要因が精子側になる場合だってあります。

 

それでも40代の卵子より20代の卵子の方が妊娠(出産)の確立はあがります。
というよりも40歳を過ぎると(30代でもありえますが・・・)採卵そのものが上手くいかない事も起こってきます。
もちろん個人差はありますが、20代であれば10個以上採卵できるのに30代後半になれば数個が限界なんていう事もあるのです。
40代になれば採卵すら出来ないという事も起こりえます。

可能性を少しでもあげたいという意味では20代や30代前半の卵子を凍結しておくと言うのは一つの選択肢になります。
ただし「卵子凍結」をしておけば大丈夫と過信しすぎないことも大切です。

 

 

卵子凍結の課題② 不妊治療を行う身体的・時間的負担

「卵子凍結」とは不妊治療の一部です。

簡単に言うと、排卵誘発剤という注射をして(自己注射を含む)卵を育てて、その育った卵を採卵するという流れになります。
不妊治療であればこの先に「受精」という次のステップが待っていますが、卵子凍結はその「受精」という次のステップを待って妊娠を望む時まで卵子を凍結保存します。

妊娠を望んだ時、凍結していた卵子は融解されて精子と顕微授精を行います。

その後は通常の不妊治療と同じです

卵子と精子が無事に授精するか、卵子の分割がとまらずに進むかを見守る事になります。
そして無事に移植できる受精卵(初期胚か胚盤胞)が出来たらそれを子宮に移植し着床を待ちます。

移植出来ても確実に妊娠するとは限りません。移植までたどり着いても妊娠に至らない事は多々あります。
それは胚盤胞まで出来てもなかなか妊娠にたどり着かない、不妊治療で悩む多くの夫婦が物語っています。

必ずしも1回の採卵、1回の移植で妊娠に至るとは限りません。
出来るだけ多くの卵子を保管するために、採卵を繰り返すこともあれば、卵子が育ちすぎて卵巣過剰刺激症候群になるリスクもあります。
1回目の移植では妊娠に至らず、何度も移植を繰り返すこともあります

だからこそ「卵子凍結」をするのであれば、そこには「不妊治療」がある事を忘れないでほしいのです。
この部分がすっぽりと抜け落ちてしてしまっている人も少なくありません。

そしてこの不妊治療には身体的、時間的負担も伴うものになります。

 

 

卵子凍結の課題③ パートナーの理解

 

「卵子凍結の使用」は一人では出来ません。(提供精子を利用する場合は別ですが・・・)
相手の承諾が必要になります。

一昔前に比べれば「不妊治療」に抵抗を示す人は減ったとはいえ、ゼロではありません。

中には時間をかけて「妊活」に取り組みたいという男性もいるでしょう。病院に行って「精液」を提出することに抵抗を示す人もいます。しなくて良いのではあればしたくない男性も少なくはありません。

男性としても、不妊治療はある程度時間をかけて段階を踏むからこそ、それなりに心づもりも出来ます。突然「卵子を凍結しているから不妊治療をしたい」と言われても戸惑いを隠せない可能性だってあります。そもそも「卵子凍結ってなに?」という男性もいるでしょう。

現時点では卵子凍結に関しては保険適用されていないため、費用的な負担も発生します。それらを踏まえてお互いが理解・納得して進めていく必要があります。

 

卵子凍結の課題 ④ クリニック選び

「卵子凍結」は不妊治療の一部です。そのため「不妊治療技術」も見極めてクリニック選びをしていく必要があります。
卵子凍結をしてくれるクリニックであればどこでも良いわけではありません。

それぐらい不妊治療クリニックの技術格差が大きいのが今の現状です。ただ、不妊治療の情報開示は各クリニック任せのため、自分達で比較検討することも容易ではありません。

しかし、5年後、10年後の未来をとりあえずで選んだクリニックに託していいものなのでしょうか?かかる費用も決して安いものではありません。

不妊治療ではあれば、妊娠できるかどうかという結論は数ヶ月内に出ることがほとんどです。そのためクリニックが合わなければ転院という選択も可能になります。

しかし、卵子凍結の結果が出るのは数年後。年齢によっては再度採卵が難しくなっている場合もあります。

だからこそクリニック選びは慎重に行う必要があります。

 

 

卵子凍結の課題⑤ 卵子凍結に関わる費用

「卵子凍結」を語る上で忘れてはいけないのが卵子凍結から妊娠までにかかる費用の問題です。

費用はクリニックによって違いますが、以前浦安市では市の補助がなければ1人当たりの金額は1回で70万程とニュース記事には記載されていました。
もちろん採卵できる個数や使用する薬剤、この金額に一定期間の保管料が含まれているかどうかでも金額は変わってきますが、決して安い金額ではありません。

そして先ほども書きましたが、凍結していた卵子を使用する(卵子の受精や移植)時にも費用がかかります。

何より何年保管するかどうかで保管の為の維持費も変わってきます。

そんな話をすると妊娠の可能性と卵子凍結費用を天秤にかけて尻込みをしてしまう人も少なくありません。

ただ何にお金をけるかは人それぞれです。「卵子凍結」に投資するという選択肢ももちろんありです。
周りが勝手に「高額だから・・・」と否定するものでもありません。

今後は卵子凍結の補助金や保険適用に関しても議論されていくのではないかと考えています。

 

卵子凍結の課題⑥ 高齢出産というリスク

例えば、20代の卵子を40代で移植した場合、卵子はどれだけ若くても身体は40代です。
高齢出産には高齢出産のリスクがある事もあらかじめ知っておく必要があります。

そういう意味では若い間に出産出来るのであれば若い間に出産しておく方が望ましい事には違いありません。

とはいえパートナーに出会うのは「縁」です。

シングルマザーを選択する人など、今は子供を持つという事も多様化してきていますが、多くの場合はパートナーに出会った先に妊娠・出産があることがほとんどです。海外の精子バンクを利用して選択的シングルを選ぶ人はまだまだ少数です。

そのため、卵子凍結をするのであればその先のライフプランもしっかりと考えておく必要があります。パートナーとの出会いが遅くなればなるほど、高齢出産になる可能性が出てきます。医学的には、高齢出産を避けられるのであれれば避けるに越したことはありません。

だからこそ、卵子凍結を考える時は高齢出産のリスクを知ったうえで、パートナーとの出会いも考えておかなければなりません。凍結卵子があるからといって、いくつでも安全に妊娠・出産に挑めるわけではないのです

また、妊娠・出産して終わりではありません。その先には長期間の子育て期間が待っています。40代後半で妊娠した場合、50代・60代で子育てをしなければならないことも考えておく必要があるでしょう。

 

それでも卵子凍結を選択肢の一つとして持っておきたい理由

卵子凍結は高額な費用が必要になる割には決して100%の方法ではありません。
凍結しておいた卵子をすべて使っても妊娠出来ない可能性だってあります。
決して魔法の技術ではありません。

様々な課題を上げましたが、それでも私は「卵子凍結」という選択肢があるという事を大学生ぐらいの年齢で知っておいてほしいと思います。
自分の未来をどう生きるか?と考えた時に選択肢の一つとして考えてみてほしいからです

中には30代で閉経を迎えてしまう可能性の人もいます。
「卵子凍結」という選択肢を知っていればまだ結婚や妊娠の予定がなくても「卵子凍結」で将来に望みをつなぐ事が出来ます。

そもそも男女問わず、多くの人が「性」に関わる知識や情報を持ち合わせていませんし、知る機会もほとんど与えられてきませんでした。

「卵子凍結」という選択肢を知る事で、性に関する知識や情報を知るきっかけになればとも思います。

「卵子凍結」をするかしないかを最初から考えるのではなく、産む・産まないをはじめとした、どのようなライフプランを設計するのか?を考える中で、性という情報ともに卵子凍結という選択肢も知る機会があればと考えます。

 

とはいえ、あくまでも卵子凍結は「個人の自己決定」であるべきであって、周りや会社があれこれと指図するものではありません。

「卵子凍結」がある程度社会的認知を得たら、リプロダクティブ・ヘルス・ライツの考えが浸透していない日本では、女性の妊娠・出産のタイミングに口をはさむ企業が少なからず出てくるのではないかという心配もはあります。あくまでも決定権は女性当人や夫婦、カップルにある事を忘れてはいけません。

 

今現在、「生殖分野」で様々な議論が行われていますが、制度の構築だけではなく必要な知識の普及と「個人の事に社会や周りが必要以上に口出しをしてはいけない」という当たり前の事を再度しっかりと周知させていかなければならないのではないかと改めて考えます。

 

決して「卵子凍結」は魔法の技術ではありません。課題もたくさんあります。でも選択肢の一つとして課題も含めて適切な情報が広まってほしいと思います

 

 

 

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