卵子凍結という選択肢

私が「卵子凍結」という言葉をしっかりと認識したのは多分2015年の千葉県浦安市での卵子凍結助成事業の時だったと思う。
一時期は盛り上がりをみせた「卵子凍結」だったが、その後はあまり話題に上がる事もなく、浦安市の卵子凍結助成事業も2018年に終了となった。

しかし、またここ1年ぐらいだろうか「卵子凍結」の話題を耳にするようになってきた。
私自身もご相談中に「卵子凍結」の話が上がる事もあれば、「卵子凍結」そのもののご相談を受ける事も増えてきた。

様々な意見が飛び交う「卵子凍結」。
安易に「卵子凍結」しておけば・・・とは勧められないが、メリット・デメリットを知った上で選択肢の一つとして知っておいても損はないのではないかと思う。

もし私自身が15歳若ければ、最終的に卵子凍結をするかしないかは別としても興味を持って調べただろうなとは思う。

そんな卵子凍結についてメリット・デメリットを踏まえながら私自身の考えを記していこうと思う。

 

 

妊娠が保障されているわけではない

20代で卵子凍結をしたからと言って将来妊娠できる保証はどこにもない。
10個凍結しようが、20個凍結しようが、30個凍結しようが・・・100個凍結しようが、残念がら100%妊娠できるとは言い切れないのだ。

凍結する卵子数の目安をみかけるが、あくまでも目安にしか過ぎない。

それは卵子と精子と受精させて、受精卵を育てて、子宮に戻してみて初めて妊娠がわかるからである。
その先も妊娠の継続というステップが待っている。
妊娠の陽性反応が出たら後は出産を待つのみではない。
その間に残念ながら、流産や死産を経験する事だってある。

こればかりはやってみないとわからないのである。

不妊の原因に卵子の老化(女性の年齢)が挙げられることが多いが、決して不妊の原因は女性の年齢的な問題ばかりではない。
当たり前だが、男性の精子に問題があることもある。
女性の子宮に着床しにくい要因があるかもしれないし、妊娠を継続できない(しにくい)要因(不育症)がある場合もある。
現在の不妊治療技術ではどうしようも出来ない事もある

それでも40代の卵子より20代の卵子の方が妊娠(出産)の確立はあがる。
というよりも40代を過ぎると(30代でもありえるが・・・)採卵そのものが上手くいかない事だってある。
もちろん個人差はあるが、20代であれば10個以上採卵できるのに30代後半になれば数個が限界なんていう事もある。
40代になれば採卵すら出来ない・・・という事もある。

可能性を少しでもあげたいという意味では20代や30代前半の卵子を凍結しておくと言うのは一つの選択肢だと思う。
ただし「卵子凍結」をしておけば大丈夫と過信しないという事が前提条件ではあるが・・・

 

卵子凍結までの流れとその後は不妊治療と一緒

「卵子凍結」とは不妊治療の採卵までの部分を切り抜いたものである。
ざっくりな書き方で申し訳ないが、要は注射をして(自己注射を含む)卵を育ててその育った卵を採卵してもらうのだ。
不妊治療であればこの先に「受精」という次のステップが待っているが、卵子凍結はその「受精」という次のステップを待って妊娠を望む時まで凍結保存されるのである。

妊娠を望んだ時、凍結していた卵子は融解されて精子と受精する事(受精させられる事)となる。
その後は不妊治療と同じである。
卵子と精子が無事に受精するか、卵子の分割がとまらずに進むかを見守る事になる。
そして無事に移植できる受精卵が出来たらそれを子宮に移植する事となる。

そして移植出来ても確実に妊娠するとは限らない。
移植までたどり着いても妊娠に至らない事は多々ある事である。
それは不妊治療で悩む多くの夫婦が物語っている。

だから「卵子凍結」をするのであれば、その先に「不妊治療」がある事を忘れてはいけない。
結構、この部分がすっぽりと抜け落ちてしてしまっている人も少なくない。
そして「不妊治療」は一人では出来ない。(提供精子を利用する場合は別だが・・・)
相手の承諾が必要なのである。

一昔前に比べれば「不妊治療」に抵抗を示す人は減ったとはいえ、ゼロではない。
中には時間をかけて「妊活」に取り組みたいという男性もいるだろう。
何より、男性にとっても病院に「精液」を提出するというのは決してハードルが低い事ではないのではないだろうか?
しなくて良いのではあればしたくない男性も少なくはないと思う。

男性としても、不妊治療はある程度時間をかけて段階を踏むからこそ、それなりに心づもりも出来て来るだろうが、突然「卵子を凍結しているから不妊治療をしたい」と言われても戸惑いを隠せない可能性だってある。
そもそも「卵子凍結ってなに?」という男性もまだまだ少なくないのではないかと思う。

そして「卵子凍結」の先に不妊治療があるという事は、その先の「不妊治療技術」も見極めてクリニック選びをしていく必要がある。
卵子凍結をしてくれるクリニックであればどこでも良いわけではない。
それぐらい不妊治療クリニックの技術格差が大きいのが今の現状なのである。

 

卵子凍結と費用の問題

そしてもう一つ「卵子凍結」を語る上で忘れてはいけないのが費用の問題である。
費用はクリニックによって違うが、浦安市の事例では市の補助がなければ1人当たりの金額は1回で70万程とニュース記事には記載されていた。
もちろん採卵できる個数や使用する薬剤やこの金額に一定期間の保管料が含まれているかどうかでも金額は変わってくるが、決して安い金額ではない。

そして先ほども書いたがこの先には移植が待っている。
移植の時もまた別途費用が必要になってくる。

何より何年保管するかどうかで保管の為の維持費がかかってくることも忘れてはいけない。

そんな話をすると妊娠の可能性と卵子凍結費用を天秤にかけて尻込みをしてしまう人も少なくない。

でもちょっと考えてみてほしい・・・
例えば諸々の費用をあわせて卵子凍結と保管費に100万必要だとする(金額はあくまでも例です)
この100万を何に投資するかである。

私が20代の頃はまだまだブランドのバックをシーズンごと(ボーナスごと)に買い替える人も少なくなかった時代である。
そんな特集が雑誌を度々賑わしていたし、ご褒美バック、ご褒美ジュエリーなんていう特集もあった。
そういう事にあまりお金を投資できない私はいつも雑誌をみながらゼロの数を数えたものだった。

物ではなく事消費にお金を費やす人もいた。
私はどちらかというとそのタイプで、夏はダイビング(冬も潜りましたが・・・)冬はスキーにお金を費やした。
旅費に器材類(ダイビング器材も自前の器材を持っている)に軽く100万以上は費やしているだろう・・・

ブランド品に価値を見出す人、車に価値を見出す人、旅行などの事消費に価値を見出す人・・・
人は何に価値を感じるなんて人それぞれである。
だったらその中に「卵子凍結」という選択肢があっても良いのではないかと思う。
周りが勝手に「高額だから・・・」と否定するものではない。

もちろん、少子化対策の一つとして補助があればそれに越した事はないと思うが・・・
その為にはもう少し議論が必要な分野ではないかと思う。

 

高齢出産というリスク

そしてもう一つ言われるのが、この高齢出産のリスクである。
例えば20代の卵子を40代で移植した場合、卵子はどれだけ若くても身体は40代である。
それ相応のリスクがある事を知っておかなければならない。

そういう意味では若い間に出産出来るのであれば若い間に出産しておく方が望ましい事には違いない。

とはいえ結婚も「縁」のものである。

シングルマザーを選択する人、LGBTカップルが子供を持つことを考えるなど今は子供を持つという事も多様化してきているが、多くの場合は結婚の先に子供があるのであって、子供が欲しいが為に結婚するのではない。

「卵子凍結」を視野に入れている人が、「高齢出産になるから・・・」と慌てて婚活をする人は正直少ないのではないかと思う。
(もちろんそういう選択があっても良いのだけど)

もちろん卵子凍結前に高齢出産のリスクを知る事は大切である。
そのリスクを知った上でどうするかは最終的に本人達が決める事だと思う。
40代以上の不妊治療が行われている現状で、卵子凍結の高齢化だけを問題視しても仕方ないのではないかとも思う。

 

それでも卵子凍結を選択肢の一つとして持っておきたい理由

卵子凍結は高額な費用が必要になる割には決して100%の方法ではない。
凍結しておいた卵子をすべて使っても妊娠出来ない可能性だってある。
決して魔法の技術ではないのだ。

それでも「卵子凍結」という選択肢があるという事を大学生ぐらいの年齢では知っておいてほしいと思う。
自分の未来をどう生きるか?と考えた時に選択肢の一つとして考えてみてほしいのである。

現在「卵子凍結」を治療の一環として実施してくれるのは「がん」の時だけである。
がん治療によって妊孕性が低下する可能性がある場合は卵子凍結をすることが推奨されている。
それ以外の「卵子凍結」はあくまでも社会的な理由なのである。

でも、中には30代で閉経を迎えてしまう可能性の人もいる。
「卵子凍結」という選択肢を知っていればまだ結婚や妊娠の予定がなくても「卵子凍結」に望みをつなぐ事が出来る。

また、重度な子宮内膜症を患っていれば自然妊娠で授かれる可能性が下がり不妊治療が必要となる場合も少なくない。
どちらにしても不妊治療が必要であれば、若いうちに「卵子凍結」しておくのも一つの選択肢である。
でも知らなければその選択肢を選ぶ事は出来ない。

そもそも女性は自分の「生殖」に関わる身体の情報を知らな過ぎる。
「不妊?」と思って初めてクリニックに行って、女性ホルモン値や甲状腺ホルモン値、AMHの値や、クラミジアの感染の有無や卵管閉塞の有無を知る事になる。
そこで初めて、閉経が間近に迫っている事を知らされる人もいれば、卵管が詰まっていて自然妊娠が難しい事を知る人がほとんどだ。

「卵子凍結」という選択肢を知る事で、自分の身体の状態(生殖に関わるホルモン等)を知ろうというきっかけになればとも思う。
「卵子凍結」をするかしないかで最初から考えるのではなく、まずは自分の身体の状態を知る事から初めてみても良いのではないだろうか?
身体の状態を知って、それから「卵子凍結」について考えてみても良いのではないかと思う。

 

卵子凍結はあくまでも「個人の自己決定」であるべき

とはいえ、あくまでも卵子凍結は「個人の自己決定」であるべきであって、周りや会社があれこれと指図するものではない。

もう数年前の話になるが、とある女性のキャリア雑誌で「生殖医療が発展した今、女性も40歳半ばまではバリバリ働いてそれから妊娠・出産を考えるべきではないのか?」という趣旨の討論を読んだことがある。

人生設計や家族計画に関して企業や社会があれこれ口出しするべきではないと一人憤りながら本を閉じた記憶がある。
(当時はあまりの腹立たしさに購入せずに帰宅した事を少し悔やんでもいる。あとで記事に出来たのにと・・)

「卵子凍結」がある程度社会的認知を得たら、女性の妊娠・出産のタイミングに口をはさむ企業が少なからず出てくるのではないかという心配はある。

あくまでも決定権は女性当人や夫婦、カップルにある事を忘れてはいけない。
今現在、「生殖分野」で様々な議論が行われているが、制度の構築だけではなく必要な知識の普及と「個人の事に社会や周りが必要以上に口出しをしてはいけない」という当たり前の事を再度しっかりと周知させていかなければならないのではないかと改めて思う。

 

20代で妊娠・出産できる社会と言うけれど

「不妊」や「卵子凍結」の話になると一緒にあがってくるのが、「本来であれば20代で妊娠・出産できるのが理想」という理想論である。
高齢出産のところでも少し触れたが、確かに身体的には20代で妊娠・出産できるのが理想だろう。
でも、妊娠して出産して終わりではない。
その先には子育てが待っているのである。

20代で出産しても、子育てがある程度ひと段落するのが40代。
社会人経験もほとんどなく妊娠・出産をした女性が40代から再度チャレンジできる仕組みが今の日本社会にあるのだろうか?
そしてそんな社会がこの先つくられる見込みがあるのだろうか?

もちろん子育てをしながらキャリアを築いていく女性もいるだろう。
でもその道は、世間が想像する以上に今のこの日本社会では前途多難である。
保活から始まり、子供の保育園への送迎、子供の病気に、小学校1年生問題・・・
正直あげだしたらキリがない。

そしてこの問題はここ10年間ほとんど進歩がない。
この話をここで書き始めたら終わりが見えないのでそのうち・・・としておきたいと思うが、そんな今の日本社会の現状を見る限り、20代で妊娠・出産を唱えるのは正直理想論でしかないように思える。

社会が変わるのを待っている間に(変えていく間に)私達は年を重ねていく。
だったら今できる選択肢を選ぼうと思うのではないだろうか?

決して「卵子凍結」は魔法の技術ではない。
でも選択肢の一つとして持っていても良いのではないかと思う。

 

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