不妊治療退職 後悔している?していない? 13年間の心の変化を振り返る

不妊治療退職をして後悔していませんか?時折、こんな質問をいただくことがあります。

正直、「後悔していない」と言えばうそになる。この13年間で少しずつ受容していったというのが答えなのかもしれません。

不妊治療退職から13年。私の気持ちがどのように変化し、どのように不妊治療退職を受け入れてきたのかを綴っていきたいと思います。

不妊治療に関するこういう心境は語られることがあまりないので、不妊治療と仕事の両立に悩んでいる誰かの参考になれば幸いです。

 

 

2011年7月31日 私は前職を退職しました。

超がつくほどの氷河期世代と言われた世代。臨床検査技師の資格を取得して学校を卒業したものの思うような就職は出来ませんでした。

女性はいらないんだよねと言われ、1名の求人に新卒生が200人も集まる…そんな時代。契約社員やパート社員で就職する人も多かった中、なんとか正社員での就職先を得ることができました。

ただ、ここでは詳しく書くことは避けますが、最初の就職先は想像以上のブラックでした。この会社で長く勤めることは難しいと感じ、派遣社員として製薬メーカーの微生物試験を取り扱う部署に転職をし、その後正社員を目指して転職活動を行い、前職はようやく手にした仕事環境でした。

会社員をしていれば、合わない上司もいれば、腹が立つこともあります。それでも、超就職氷河期世代、苦労してつかみ取った正社員のポジション、そう簡単に手放すわけにはいかない、この会社で子育てをしながら定年まで働き続けるのだろうなと漠然と考えている自分がいました。

そして何より仕事が好きで、仕事にやりがいを感じていました。「同じ業務の仕事にそう簡単に巡り合うことはできない」そう思っていたはずなのに‥‥

私は不妊治療と仕事の両立に悩み、ようやく手に入れたポジションを自ら手離すことにしたのです。

 

 

不妊治療退職の後悔は後からやってきた

不妊治療を先延ばしにして後悔したくない

当時働いていた会社は「ワークライフバランス」とは程遠く、2時間、3時間の残業は当たり前でした。なんなら定時である17時からもうひと仕事に取りかかることも少なくありませんでした。

そんな中、結婚して2年なかなか妊娠しない私は、重い腰をあげて不妊クリニックへの通院を始めました。1周期の間に1回か2回通院すれば大丈夫だろう…という見通しで始めた不妊治療の通院でしたが、現実はそう甘くはありませんでした。

思うように卵胞が成長しない。そんなこともあっても、「また明後日来てね」と言われることも度々ありました。

定時ダッシュで通院できるとはいえ、残業が当たり前だった私にとって、週に3回の通院はなかなか厳しいものでした。おまけに月経周期が短い私は月に2回生理がやってくるということも珍しくありませんでした。

生理が来ると「また2週間、通院のために定時退社しなければならなくなる‥」そう考えるだけで憂鬱になっていたのです。

そして何より目の前に「繁忙期」というタイムリミットが迫っていました。「この繁忙期に突入すれば、1年~1年半ぐらいはクリニックの通院が難しくなる」そうなる前になんとか妊娠したい…私の頭の中はそんな思いでいっぱいでした。

しかしそう思う通りにはいきません。刻々とタイムリミットが目の前まで迫ってきていたのです。

「いったん不妊治療を休もうか?ただ不妊治療を再開できるのは34歳ぐらい、その時、私はこの選択に本当に後悔しないのだろうか?」そんな思いがずっと頭の中を駆け巡っていました。

そして私は、「あの時不妊治療を優先しておけばよかった…とは思いたくない」そんな思いで、退職を決断したのです。

 

仕事の両立に悩むストレスからの解放

実際のところ、退職した直後は「諦め」という思いこそありましたが、「後悔」という思いはほとんどありませんでした。。それ以上に仕事のストレスや忙しさから解放され、不妊治療に専念できる環境がありがたく思っていました。

当時の私は県外のクリニックへの転院も視野に入れていたため、どちらにしても「不妊治療と仕事の両立」は難しいだろうという結論に自分の中で至っていたというのも、「後悔」という思いにならなかった理由のひとつだったかもしれません。

「納得して退職した」、出産するまではずっとそう思っていました。

 

 

納得して退職したはずなのに

しばらくして私は子どもを授かり出産しました。「不妊治療退職から出産」ある意味、ひとつの結果を得たことになります。

だからこそ「私の選択は間違っていなかった。これでよかったのだ」と、そう自分に言い聞かせていました。「これでよかったのだ…」と。

ただ自分の気持ちを誤魔化すのも限界がありました。納得して自分で選んだはずの不妊治療退職に「後悔の思い」が出てきたのです。

「なぜ、あの時もう少し仕事と不妊治療の両立を頑張らなかったのだろう」
「会社に休職の掛け合いをすればよかった」
「雇用形態変更の提案をのめばよかったのかも…」

こんな思いがずっと自分の頭の中を駆け巡り続けていました。

何より、「社会に居場所がない」という現実をたびたび突き付けられるのが辛かった記憶があります。
当時は女性の育休復帰支援が盛んに行われていた時代でした。子育てセミナーやイベント等に参加しても、専業主婦と育休復帰組でグループを分けられる、それが益々私をみじめにし、不妊治療で仕事を退職したことを後悔し続けていました。

 

 

ゼロからのスタート

「社会に居場所がない」「戻る場所がない」というのは、私にとって思っている以上につらいことでした。

「社会に居場所がない」という状況に耐え切れず、保育園も決まらないまま、私は月10日ほど働きに出ることにしました。ただ今まで必死になって積み上げてきたものはなくなり、全てがゼロからのスタートでした。

不妊治療退職で私が失ったものは自分が思っている以上に大きかったという現実をまざまざと見せつけられたのです。

不妊治療退職をしてから2年~4年の間頃が一番「後悔の思い」が強い時期でした。この頃は「なぜ私は退職までして不妊治療を選んだのだろう?」という葛藤を常に抱えていました。と同時に、子育てが一番辛かったのもこの時期でした。

ただただ「後悔」という思いが頭の中を占めていたのです。

 

不妊治療退職の後悔を原動力に

ただ、いつまでも後悔の思いを引きずっていても仕方ない…そう思った私は、不妊治療退職の後悔を原動力に次の行動に移りました。

「不妊治療と仕事の両立で悩まなくていい社会にしたい」
そんな思いを胸に、認定不妊カウンセラーの資格を取得し、少しずつ声を上げていったのです。

正直、2016年頃にこのような声に耳を傾けてくれる人はほとんどいませんでした。冷たくあしらわれることも実際少なくなく、ビジネスコンテストに応募しても、見向きさえしてもらえませんでした。

「不妊治療と仕事の両立支援は社会的にはニーズがないのか…」そう打ちのめされることも多く、「やっぱり不妊治療退職なんてしなければよかったのかも…」そんな後悔が脳裏をかすめる時もありました。

それでも2018年頃からは、少しずつ社会の風向きが変わっていくのを感じるのと同時に、「仕事を辞めていなければ…」と考えることも少なくなりました。

不妊治療退職をしてから7年、少しずつ「不妊治療退職」を仕方なかったものだと受け入れ始めている自分がいたのです。とはいえ、完全に後悔の思いが消えることはありませんでした。どちらかというと、同じ後悔をする人をこれ以上増やしたくない…そんな思いの方が強かったように思います。

 

 

ようやく受け入れられた不妊治療退職

「不妊治療退職を後悔するのはもうやめよう。あの時はあの時できるベストな選択をしたのだ」そう思えるようになった時には、不妊治療退職をしてから9年が過ぎていました。

何かキッカケがあったわけではありません。ただある時、ふとそう感じ、そして心が軽くなったのを今でも覚えています。あくまでも私の場合ですが、ひとつの後悔、思いを昇華するのに、約10年の月日を要したのでした。

もしかしたら、「自分の判断は間違っていなかった」単にそう思いたいだけで、自分を納得させているだけかもしれません。ただそれでも自分の中にひとつ落としどころができ、気持ちが軽くなったことにはかわりはありません。

とはいえ、将来への不安がないわけではなく、正直「正社員」というポジションを手離さなければよかったと今でも思う時はあります。

将来への不安も込みで、不妊治療と仕事の両立に悩み会社を辞めることを決めたのは自分自身です。決断には「自己責任」が伴い、残念ながら社会は手を差し伸べてはくれません。

SNSでの「自己責任論」に伴うやり取りを眺めていると、「不妊治療退職という選択は本当に正しかったのだろうか?」という思いが時折よみがえってくることがあります。それでも過去を後悔しても仕方ない、そう思う自分も同時にいたりします。多分この後悔への思いは消えることなく、生涯抱えていくのだと思います。

ただ、それも含めて「不妊治療退職と後悔」を受け入れた自分がここにいるというのが、不妊治療退職から13年経った今の答えなのかもしれません。

 

 

最後に 後悔しない選択は難しい

私にとって、「社会で働くということ」はアイデンティティの大きな割合を占めていました。そしてこの思いは今でも変わっていません。

もちろん、家事・育児も立派な仕事です。でも私の中ではそれ以上に「社会で働きたい」という思いを強く持っていました。だからこそ、不妊治療退職をしたことを10年もの間、悔やみ続けていたのだと思います。

社会において不妊治療と仕事の両立支援は、少しずつ前進しているものの、まだまだ十分ではありません。時にして苦渋の決断を迫られることもあります。

 

何に重きを置くか、価値観は人、ぞれぞれ。だからこそ、自分自身が後悔しない選択をしてほしい。

 

ただ、考えている以上に「後悔しない選択をすること」は難しいのかもしれません。その時はベストな選択をしたと思っていても、私のように後から後悔の思いが湧いてくることもあるでしょう。

結局のところ、「後悔しない選択」とは「その時のベストだと思う選択」でしかないのかもしれないなと思う事があります。そしてその後、どのように折り合いをつけていくかが大事になってくるのだと思います。

 

と同時に、「後悔しても大丈夫! 何回でもやり直せる」そんな思考も大切なのかもしれません。

それでもやっぱり「出来るだけ後悔しない選択」をしてほしいと願ってしまいます。

 

 

この記事が不妊治療と仕事の両立に悩んでいる人の参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。

 

 

 

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