【妊活・不妊治療の基礎知識⑤】不妊の原因は中絶や堕胎ではない 不妊の原因と男女比の割合

ある番組の生放送で、「不妊の原因は堕胎です」「99%の女性が堕胎が原因で不妊になっている」「不妊の女性は夫に隠しているだけで過去に中絶をしている」このような発言がとある女性から発せられました。
番組内でこの発言に真っ向から反論したのは同席していた弁護士1名だけ。
あとのコメンテーターも司会者も反論することもなく、止めることもなくただ聞いているだけ。
中には大きく相槌を打っているような音声もありました。
途中で司会者からの訂正があったものの、その訂正すら打ち消そうとする女性の発言
この発言と報道にSNSでは多くの不妊当事者からは怒りの声があがっています。
知っている人がみれば、「何をバカな話を…」と思うかもしれませんが、知らない人が聞けば「そうなのか?」と思う可能性もゼロではありません。
それにも関わらず、TV局のHPには謝罪も釈明もありません。
誤った報道を流したままです。
実際にSNSでは身内から「堕胎」の過去があるのか聞かれたという当事者の投稿もありました。
ようやく不妊は決して特別な事ではなく誰でもなり得る可能性のあることが広く知られるようになり、不妊治療と仕事の両立に関しても内閣府と厚生労働省の検討チームが立ち上げられてスタートされたところ。
これ以上、いわれのない偏見で当事者女性が傷つかないように、番組は誠意ある対応をしてほしいところですが…
当のTV局だけではなく、ネットニュースすら取り上げる様子はなく、産婦人科医からの反論もほとんどありません。
(医師にとってはあまりにめちゃくちゃな発言で取り合う気にもならないのかもしれませんが…)
追記:火曜日なってようやくネットニュースになったり、医師のコメントもみられるようになってきました。
そもそも不妊で悩んでいる女性の多くは妊娠検査薬の陽性を一度も見たことがない人達が多くいます。
若しくは、なんとか授かっても流産をして辛い思いをしている人達です。
前置きが長くなりましたが、「不妊の原因は堕胎なの?」と疑っている人に、少しでも正しい情報が届けばと思います。
追記:
堕胎という表現は適切ではないという医師の指摘もありましたが、今回は発言中に合った言葉をそのまま使っています。
医療機関で行われているのは中絶や流産処置の為の掻爬になります。
不妊の原因の約半数は男性側に要因がある
最近はかなり一般的にはなってきましたが、不妊の原因の約半分は男性にあります。
女性のみ 41%
男性のみ 24%
男女ともに 24%
原因不明 11%
男性のみの不妊の原因だけでも24%あります。
この時点で、不妊の原因の9割以上が女性の堕胎に原因があるとは言えません。
男性は年齢関係なく妊孕性があると思われがちですが、男性の妊孕力も年齢とともに下がっていくことが分かっています。
また、喫煙や肥満、生活習慣などが精子の状態に大きく影響を及ぼしてくることも分かってきています。
生活習慣病項目である、高血圧、血糖値、コレステロールや中性脂肪などの数値の悪化も精子の状態にかかわってきます。
精力があれば何歳になっても大丈夫というわけにはいかないのです。
不妊は女性だけの問題ではなく、男性も女性も両方の問題なのです。
もし番組内で謝罪と訂正がされるのであれば、この部分にもしっかりと触れてほしいと思います。
女性側の不妊の原因と割合
さらに女性の不妊の原因も細かく見ていきたいと思います。
女性の不妊症の原因には…
・排卵因子(排卵障害)
・卵管因子(閉塞、狭窄、癒着)
・子宮因子(一部の子宮筋腫や子宮内膜ポリープなど)
・頸管因子(子宮頸管炎、子宮頸管からの粘液分泌異常など)
・免疫因子(抗精子抗体など)などがあります
その中でも多いのが「排卵因子」と「卵管因子」の2つです。
産婦人科医会のHPを見ると、2003年に日本受精着床学会が行なった不妊治療患者によるアンケート調査の結果が掲載されています。
それによると男性不妊が原因の不妊が33%、排卵因子が原因の不妊は21%、卵管因子が原因の不妊は20%と記されています。
1996年のWHOの発表とは少し数値が違うが、この3つだけで不妊の原因の75%を占めることになります。
堕胎による掻爬手術が不妊に影響を及ぼしてくるとすれば、原因分類としては子宮因子になります。
子宮因子が原因の不妊の割合に関しては、書かれているものによって数値にばらつきがあるのですが、日本受精着床学会の調査では18%、産婦人科医会のHP内では、不妊症全体の1~3%、女性不妊症の2~7%と書かれています。
ただし、この子宮因子には子宮筋腫や子宮内膜ポリープなども含まれてきます。
確かにまれですが、掻爬手術が不妊の原因になる場合もあります。
でも、それは全体からみた割合としてはかなり低いものです。
原則として子宮内にダメージを残さないように掻爬手術が行われています。
不妊には様々な原因があり、また原因も一つだけではなく複数が絡み合っている場合もあります。
少なくとも9割以上の不妊の原因がコレだ!!と断定することはできないのです。
ここでは深くは触れませんが、流産時や中絶時に行われるこの掻爬手術自体にも様々な問題点があり、改善が望まれているのも事実です。
また、望まない妊娠を防ぐための緊急避妊薬のアクセスが良くないのも日本の現状です。
そしてそもそも仮に望まない妊娠であったとしても妊娠は女性一人で出来るものではありません。
そこには必ず相手がいるのです。
そしてこの掻爬手術は望まない妊娠時だけに行われているのではなく、胎児がお腹の中で亡くなってしまった場合の流産の処置でも行われることがあります。
番組でのあの発言は多くの不妊患者を侮辱しただけではなく、様々な理由で掻爬手術を受けたことがある女性を不安に陥れる発言でした。
番組には謝罪と訂正と同時に、産婦人科の専門家からの正しい解説を番組内で放送していただきたいと願うばかりです。
当事者カップルや若い世代だけはなく、社会全体への知識や情報の啓発が必要
妊娠や不妊の話になると、当事者カップルや若い世代の知識不足が毎回やり玉に挙げられます。
しかし、実は正しい知識や情報を持っていないのは当事者世代や若い世代だけではないということが明らかになったのではないでしょうか?
番組内で、この発言に反論したのは弁護士のかた1名だけでした。
他の方は反論せずにただ、ただ話を聞いているだけ…
もしかしたら、何が間違っているかわからなくて発言を止めることも、反論することもできなかったのではないかと思うのです。
そしれそれは番組制作のスタッフ全体に言えることなのかもしれません。
だからこそ司会者に適切な指示がだせずあのような発言がテレビで放送されてしまったのではないかと…
これから、自分には関係ない…と思っていた人も不妊の話を聞く機会も増えてくるでしょう。
不妊治療と仕事の両立が出来る社会づくりが進められていけば、部下や同僚に不妊で悩んでいる当事者がいることを知ることもあるでしょう。
今まで何気なく言っていた発言が、自身の知識のなさを披露していた可能性もあるかもしれません。
今一度、当事者や若い世代に限定せずに社会全体で、妊娠や不妊・妊孕性について、そしてリプロダクティブ・ライツについてしっかりと学びなおす必要があるのだと思います。
参考資料:日本生殖医学会HP
日本産婦人科医会HP
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