【新型コロナウイルス関連】 不妊治療再開の声明とこれからの不妊治療の進め方について思う事

本日(令和2年5月18日付)で日本生殖医学会から以下の声明が発表されました。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する日本生殖医学会からの通知

一部抜粋すると・・・

これを受け、本会は会員に対して以下のように提言します。
1)不妊治療(人工授精、体外受精・胚移植、生殖外科手術などの治療)の延期を選択肢として受け入れた患
者さんに対して、COVID-19 感染防御と感染拡大防止の対策を可能な限り施行した上で、以下の点に配慮し不
妊治療の再開を考慮してください。
2)感染の動向が都道府県や地域によって異なること、患者さんごとに背景や感染した場合のリスクが異なる
可能性があることなどから、不妊治療の種類と実施の可否についての選択は患者さんへの十分な説明と同意
のもとに医師と患者さんでよく相談して実施してください。
3)COVID-19 感染に対する医療供給体制などの社会状況にも配慮しながら、それぞれの状況に応じた適切
な医療を実施してください。

要は「不妊治療の延期をしてもらっていた患者さんに対して不妊治療を再開してください」という内容です。

私もこちらの記事で書いていますが・・・

新型コロナウイルス感染症に関する声明が日本生殖医学会から発表

4月1日に「不妊治療の延期を選択肢として患者さんに提示していただくよう推奨」という一文が不妊治療当事者の間で大きな混乱と不安を招きました。
不妊治療当事者にとって不妊治療は決して「不要不急」の治療ではない・・・と多くの人が声をあげました。

そんな当事者の声を受けてか、はたまたクリニックの諸事情があってかはわかりませんが、実際に治療全般を延期や一部の治療を延期、中止をHPで推奨していたクリニックや病院は15%しかありませんでした(関東、西日本地域の集計より計算 自己調べ)
感染者が多かった東京都でも延期、中止をHPで推奨していたのは16%ほどでした。

というよりも53%のクリニックや病院では生殖医学会の声明に関して触れている記載はみられませんでした。
(関東・西日本地域の集計より計算 自己調べ)

これはHPの更新技術の問題もあるのでしょうが(業者任せで更新できないクリニックもあるかと・・・)、それ以上に地域によってはそこまで感染リスクを懸念せずに通常通りの治療が行われていたのかもしれないなと思っています。
実際に100人超えの感染者が確認されたのは5月13日時点で18都道府県。
これは私の感覚も含みますが・・・その中でも感染経路が不明な感染者が頻発している地域は限られているように思います。

4月1日の声明発表後、この件に関しては様々な媒体から記事が出ましたが、多くの記事で懸念されていたのは「妊婦への感染」ではなく、院内感染や患者さんが通院中に発生する感染のだったような気がします。
「妊婦への感染」を懸念するのであれば不妊治療に関わらず「妊娠を望む人すべて」への注意喚起が必要だったからです。

ただ、この点から不妊治療が抱えている問題がまた一つ見えてきたように思います。

 

院内で感染が発生したら治療がキャンセルになるという問題

全国の各クリニックのHPを見ていて気になった事がありました。
それは、「院内で感染若しくはクラスターが発生した場合、院長が感染した場合はしばらくの間診療が出来ません。その場合は治療が急に中止となる可能性がある事、そこまでに発生した薬剤費や治療費の返金は出来ない事(意訳)」と書かれているクリニックが結構あったということです。

もちろん起こり得るリスクとして明記しておくことは必要だと思います。
ただ、ほとんどのクリニックにおいて「他院に紹介する事、引き継いでもらう事が出来ない・・・」それが今の不妊治療クリニックの現状なんだ・・・と改めて痛感したのです。
都内では数件のクリニックのみ院内での感染発生時に他のクリニックで対応が可能な旨が記載されていましたが・・・その数件だけでした。

というのも、現在の日本の不妊治療には明確なガイドラインがありません。
各クリニックの技術や医師の知識や技量に任されているのです。
なのでAクリニックで受けられる治療や検査がBクリニックでは受けられないだけではなく、そのような治療があることすら提示されることはありません。
通うクリニックであまりにも治療方針が違い過ぎるのです。

その為、万が一何かが起こっても他院に簡単に転院・紹介出来ないのが今の現状なんだと思います。
今までは「不妊治療で他院に転院する」ということは、よほどのことが無い限り1から新しい方針で治療をReスタートするという事でした。前クリニックでの治療を引き継ぐということはあまりありません。もちろん今まで受けてきた検査や今まで使った薬は参考にはするでしょうが・・・あくまでも参考レベル。
そして転院する患者の多くも新しい方針の治療を求めて転院するわけですから・・・今まではそれでよかったわけです。

しかし、この新型コロナウイルスでそれらが一つの問題点として浮き彫りになったのではないでしょうか?

お産であれば、Aクリニックが新型コロナウイルスの影響で出産が難しくなっても、別のクリニックを探してもらえます。
個室や、母子同室、授乳指導など細かな違いはあるかもしれませんが、基本は変わりません。
うちのクリニックでは帝王切開しかしません、誘発分娩しかしません・・・なんていうクリニックはないのです。

でも不妊治療クリニックはそうはいきません。
例えばうちのクリニックは自然周期採卵しかしません、うちは高刺激誘発での採卵が基本です・・・などなど各クリニックの特徴があります。
そしてそれがその後の患者さんの妊娠結果を左右する事にもなりうるのです。
その為、Aクリニックで新型コロナウイルスのクラスターが発生したからといって方針が違うBクリニックへ転院とは簡単にいかないのです。

もしある程度統一されたガイドラインがあれば・・・万が一の時に治療中断ではなく他のクリニックで治療が継続できるのではないかと思います。
また今回、さほど発生数の多くない地方の総合病院でも新型コロナウイルス患者受け入れ病院であるがために、不妊治療外来の縮小や治療の延期が掲載されていた総合病院もありました。
そんな場合でも統一された指針があれば近隣のクリニックで治療が継続できたのではないかと思うのです。

これを機に万が一の時に他院へ転院できる仕組みづくりや、統一されたガイドラインを作る事をそろそろ本気で考える時期にきているのではないでしょうか。

「不妊治療クリニックは一国一城の主」以前このように表現された方がいましたが、そろそろ統一するタイミングなのではないかと思います。

 

患者の負担金額の問題

この新型コロナウイルスの影響下ではいつ治療が中断されてもおかしくない状況でした。
特に4月1日の段階ではこれからどれだけ流行が拡大するのか?多くの人が不安に感じていたのではないでしょうか?
通院しているクリニック内で感染が起きた場合はもちろんのこと、患者自身が感染者になった場合や濃厚接触者になった場合も治療を中断せざる負えません。
クリニックによっては濃厚接触者の家族でも治療の中断を求められたかもしれません。

そんな時に問題になってくるのが、今まで支払った治療費です。
薬代も含めれば、数十万になる事もあるでしょう。
これらが治療を途中で中断するにも関わらず治療費用として消えていくのです。
このような状況ですから仕方ないとはいえ、その当事者になってしまった人にとっては仕方ないでは済まされない金額です。
それが全て個人の肩に乗っかかってくるのです。

もしかしたら金銭的にこの1回が最後の治療の人もいます。
「感染したら治療費が全て無駄になる・・・次はない・・・」そう思うと時間的猶予はないけど治療に踏み出せないというカップルもいたかもしれませんし、クリニック側もそのようなリスクを背負ってまでこの状況では治療は勧めにくかったかもしれません。

東京都内でも多くのクリニックが通常通り診察、患者の意思に委ねるとHPには記載されていましたが、高額な治療費が新型コロナウイルスの影響で無駄になる可能性がゼロではない・・・そんな思いの中決断していった人も少なくなかったのではないかと思います。

そしてこの問題は通常通り診療が再開されても、新型コロナウイルスが完全に終息しない以上、新型コロナウイルスに関する方針が大きく変わらない以上、これからもしばらくの間ついて回る問題になります。

 

これから不妊治療続けていくうえで考えておかなければならないこと

今後、一部の治療を延期していたクリニックや診療そのものを大幅に自粛していたクリニックも一旦は徐々に通常の診療に戻っていくでしょう。
(ただし新型コロナウイルスの感染患者さんの受け入れ病院になっている場合はもう少し時間がかかるかもしれませんが・・・)

しかしいつ第2波、第3波が来るかはわかりません。
これが来月かもしれないし、3か月後、半年後かもしれません。
もしかしたら第2波、第3波が来る事無く、ワクチンや治療薬が出来ているかもしれません。
こればかりは正直誰にもわからないのです。

とはいえ、いつ次の感染拡大がやってきても良いように心の準備をしながら不妊治療を再開する必要があります。
次にまた同じように治療の中断を求められた時年齢は今より確実に上になります。
今回は治療の中断を受け入れた人でも、その次の時も必ずしも同じように治療の中断を受け入れられるかどうかはわかりません。
治療が上手く進んでいなければ・・・立ち止まっている余裕なんてないという気持ちにもなるでしょう。

だからこそ漠然と治療を再開するのではなく、可能な限り短期間で妊娠にたどり着ける効率の良い方法を模索してほしいのです。
もちろんどれだけ模索してもその方法にたどり着かない人が一定数いるのはよくわかっています。
でも、この治療方法が本当に最善の治療なのか?
本当に必要な検査は行えているのか?(男性不妊の検査をおざなりにして顕微授精に進まれている方も少なくありません)
今一度考えてほしいのです。

中には卵管造影検査もせずに1年以上タイミング治療を行っているというご相談者さんもいます。
人工授精を2年近く続けているという方もいます。

次に新型コロナウイルスの第2波が来た時は、今よりももっと大きな流行になる可能性もあります。
そしてそんな事にはなっては欲しくないけど自粛制限期間も長くなる可能性があります。
だからこそ治療が再開できる今、クリニック任せにせずにもう一度自分自身の治療の方向性を考えてほしいのです。

 

これから妊活・不妊治療をスタートする人へ

少し新型コロナウイルスの状況が落ち着いてきた今、妊活や不妊治療をスタートしようと言う方もおられると思います。
ただいつ不妊治療にまたストップがかかるかわからないのが今の現状です。
だからこそ漠然と妊活・不妊治療を始めるのではなくしっかりと計画をたててスタートしてほしいのです。

一般的に不妊クリニックへ検査へ行くのは、今までなら妊娠を望んでから半年、1年経ってからの人が多くを占めていましたが、感染が下火の間に検査だけ受けておくというのも一つの考え方だと思います。
検査結果によってはタイミング治療や人工授精を飛ばして体外受精が必要な場合もあります。

年齢によっては1年ぐらい自己流の妊活をしてからその事が判明しても体外受精をすれば問題なく妊娠することが出来ます。
でも、今は1年後にまた感染が拡大していて今以上の自粛生活が求められている可能性もあります。
不妊検査や不妊治療の為の通院すら困難になる可能性だってゼロではありません。
通院できても今以上のリスクを抱えながら通わなければならない可能性だってあります。
だからこそ知れることは早い段階で知っておいても損はないと思うのです。

そしてもう一つ考えておいてほしいのが、また緊急事態宣言が出され、クリニックの診療が大幅に縮小されたり、一部の治療の延期が推奨されるようになった時、自分たちはどのような判断をするかという事です。
今回と同じような状況になっても継続を望むのであれば、継続が可能なクリニックを選ぶ必要が出てくるからです。
もちろん今回通常通りに診療を行っていたクリニックが第2波、第3波でも同じように通常通り診療が行えるとは限りません。
でも、今回どのような方針を取ったかを知っておくことはしばらくの間続くであろう「withコロナ」の中で、不妊治療を受ける為には必要な情報だと思います。

 

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