【妊活・不妊問題】健康診断への項目導入が本当に不妊予防につながるのか?

先日(6/21)ネットニュースでこのようなニュースが流れてきました

【独自】不妊予防支援、健診項目の見直し検討…月経痛など追加

具体的な対策として、自治体や企業などが実施する健診で約20項目用意されている標準的な質問の中に、月経痛や生理前の不調などに関する項目を盛り込む検討を行う。健診項目を充実させることで、早期発見につなげ、産婦人科などに相談しやすくする狙いがある。

 

健診業務に携わってきた検査技師として、ようやく健康診断項目に女性の健康に関する項目が追加されるという喜びと同時に、不妊カウンセラーとしては、

・月経痛や生理前の不調などのヒアリングだけで果たして、不妊予防につながるのか?
・そもそも不妊は予防できるものではない?間違った認識を世間に与えてしまわないか?

という疑問も同時に頭をよぎりました。

 

そもそも不妊は予防できるものではない

 

そもそも不妊の原因は複数あり、様々な要因が絡み合っているため、そう簡単に”予防”できるものではありません。

また、結果的に体外受精や顕微授精で妊娠したものの、何が不妊の原因だったかわからない人もたくさんいます。

排卵障害や卵管閉塞、男性不妊など原因がわかるものもありますが、それらに関しても”予防”することは容易いものではありません。

妊娠しやすい身体づくりというと、食のことや睡眠のこと、日常の運動のことなど様々な事が出てきますが、これらは「やってみては?」のレベルであり、やらなければ不妊になるというものでもないのです。

確かに男女ともに喫煙は不妊のリスクを上げます。
また、肥満も男女ともに不妊のリスクになりますし、女性の場合は痩せすぎも肥満のリスクになります。
そういう意味で、禁煙する、適正体重を維持するというのは不妊予防の一つにはなるでしょう。

また、男性の場合は生活習慣病項目(血糖値、コレステロール、中性脂肪)などが正常値より高い場合は、男性不妊のリスクがあがるため、健康診断でこれらの項目を指摘されている場合は、食事や生活習慣の見直しを行うことが不妊の予防につながることになります。

ただ不妊の原因の多くは、「個々の努力ではどうしようもないものがほとんどであるという」ことも”不妊予防”という言葉が独り歩きしないために、きちんと伝えていく必要があります。

 

不妊のリスクを知ることを考えたら…健康診断で導入してほしい項目

まだ全貌が明らかになっていないので、はっきりした追加健診項目はわかりませんが、どうも内容は月経痛やPMSに関する問診の追加のようです。

正直なところ、これらの項目を追加しただけではあまり意味がないようにも感じます。
月経痛やPMSはわざわざヒアリングされなくても多くの女性は自覚しています。
自覚しながらも受診という行動に移せないのは別の要因があるからではないでしょうか?

もちろん、月経痛から受診行動に促すことも大切です。

しかし、不妊対策を謳う項目を健康診断に追加するのであれば、もう少し別の項目を追加することを検討してほしいと思います。

例えば…
・子宮や卵巣の超音波検査
・AMHの測定
・女性ホルモン(FSH LH E2)の測定
・甲状腺ホルモンの測定
・クラミジア抗体の測定
・風疹の抗体価の測定

などです。

毎年は必要ないでしょうが、25歳、30歳、35歳と節目の年などに公的な補助の元、受診しやすくなればと思います。

そもそも不妊は自覚のないものも少なくありません。
だからこそ、導入するのであれば問診項目のような主観的なものだけではなくエコー検査や血液検査など客観的にわかるものを取り入れてほしいと思います。

そして不妊は女性だけの問題ではありません。
男性の場合は、生活習慣病の項目も精子の状態に影響を及ぼしてくることがわかっています。
男性不妊に関しても、健康診断でどのようにアプローチしていくのかもあわせて検討していってほしいと願います。

 

 

健康診断はあくまでも不妊を知るきっかけでしかない

 

残念ながら健康診断を受診したからと言って、全ての不妊を予防することは出来ません。

確かに月経痛や月経過多に関しては、妊娠を望まない間はピルを服用することで生理をコントロールし、子宮内膜症などがある場合は進行を抑えることが出来ます。
しかし、それでも子宮内膜症や子宮筋腫に由来する不妊を完全に予防することは残念ながら出来ません。

あくまでも、不妊の可能性があるから、妊娠を望んだ時は早めに専門のクリニックを受診し、必要な検査を受け、場合によっては最初から体外受精にステップアップするという選択肢を取るという行動につなげるしかありません。

もし、仮に不妊のスクリーニング検査で行われる血液検査が健康診断に組み込まれても同じです。
妊娠を望んだ時に”早めにクリニックを受診する”という選択肢しかないのです。

妊孕性に関わるホルモンの値を知っても、妊娠を望むまでは出来ることはほとんどありません。

ただし、甲状腺の異常が見つかれば事前に治療をしておく、早発閉経の可能性がわかれば卵子凍結を検討することは出来ます。

”不妊予防”という観点ではなく、自分の身体(妊孕性も含めて)を知るという意味でうまく健康診断を活用できればとは思います。

 

受診行動をどのように促すのか?

 

健康診断はただ行うだけでは意味がありません。
その後、どのように行動変容につなげるかがとても大切になってきます。

それが上手くできていないのが…メタボ検診ではないかと思います。
今困っていないことに対して人は行動を起こしません。
それは私自身、健康診断業務に従事していた時に痛いほど痛感したことでした。

現時点で取り上げられているのは、月経痛やPMSに関する症状のチェックだけ
ここにチェックをして、病院を受診しましょうと言われるのであれば、もうすでに受診しているでしょう。

月経痛があっても、

・鎮痛剤で乗り切っている
・そもそもクリニックを受診する時間がない
・ピルの費用を考えれば受診を躊躇う
・近くに理解のある婦人科がそもそもない

そういう女性も多いように感じます。

何より、そもそもそのような教育を受けてきていないので、生理の不調が将来の不妊に繋がることを知らない人も少なくありません。

健診で項目追加→本人への受診推奨

それだけで何かが変わるとはなかなか考えにくいものです。
どれだけ妊娠に関して正しい情報を提供できるか?が大切になってくるのではないでしょうか?

 

受け入れ先の婦人科の問題

そして何より、大きな課題が”受け入れ先の婦人科”だと思います。

都市部であれば、近隣に20代や30代の妊娠していない女性が通院しやすい婦人科がいくつもあるでしょう。
しかし、地方となれば…残念ながら多くの婦人科は産科併設であり、気軽に受診しやすい環境とは言い難いのが現状です。

また、医師の不妊に関する知識も様々であり、「まだ若いから…」という一言で適切な不妊治療にアクセスできないという話も度々耳にします。

本人が健康診断の結果をもとに受診行動に移したとしても、受診した婦人科によっては早期の受診が意味をなさない場合もあるのです。

健康診断を通して、女性に受診を促すのは大切です。
しかし、いざ受診しようとしても近くに通院しやすいクリニックや病院がなければ、結局受診にはつながりません。
また、受診先の医師の対応一つでその後の継続した受診に繋がらない場合もあります。

女性に受診行動を促すだけではなく、そのような問題点にもきちんと目を向けて改善していっていただきたいと思います。

 

そして「健康診断で指摘されなかったから不妊のリスクがない」というわけではありません。
健康診断でわかる不妊リスクは限られています。
年齢にもよりますが妊娠を望んでから半年から1年ほどたっても妊娠に至らない場合は、不妊クリニックを受診して検査を受ける必要があります。

健康診断で指摘されていないから大丈夫だよね…という間違った安心材料にならないことを願うばかりです。

そして何より不妊予防目的ではなく、幅広い女性の健康管理のための、女性特有の疾患や妊孕性・更年期などにあわせた検査項目が健診項目に追加されてほしいものです。

 

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