不妊治療の保険適用⑥ 保険適用後の治療データはどう変わったのか?

先日日本産婦人科学会から、2022年の不妊治療のデータが公表されました。2022年は不妊治療が保険適用になった最初の年。保険適用後、総治療数はどのように変化したのか見ていきたいと思います。

 

2022年保険適用初年度の治療数はどのように変化した?

 

2022ART治療周期数

 

2022年の総治療数が増加しているのがわかります。実際に保険診療が始まった4月頃は、あちこちの地域でクリニックの予約が取れないという話を聞くことも少なくありませんでした。

東京はクリニック数も多いため、そこまで予約制限等の影響はなかったようですが、人口に対してクリニックの数が少ない地域などでは、かなり長期間にわたって予約制限があったという話を聞きます。

 

2021年 年齢別 総治療数と出産数比較

 

総治療数の変化

2021年 2022年 不妊治療総治療数の比較

・43歳までは総治療数は増加、44歳以降は基本減少(48歳と50歳以降はわずかながらに増加)
・42歳で突出して増加傾向がみられた
・36歳で増加数が減少したものの、37歳から39歳で増加数が増えている
・若い世代に関しても、33歳~35歳で一定数の増加がみられている

 

37歳以降の増加に関しては、2021年までの助成金の回数がリセットされたため、助成金を使い切って不妊治療を諦めていた人が、再度保険診療で不妊治療を再開したことによって、結果的に総治療数が増加したのかもしれません。

42歳に関しても、助成金の回数のリセットと保険診療の年齢制限の両方で、突出した数になった可能性が大きいと思います。そのため、42歳の総治療数に関して2023年以降は、ここまで突出した数値にはならないように思います。

同様に、39歳においても治療回数上限の切り替え(6回→3回)の年齢にあたるため、その影響で増加している可能性が考えられます。

 

出産数の変化

2021年 2022年 不妊治療出産数比較

・全年齢で2021年と比較して出産数は増加
・33歳、34歳で出産増加数が突出
・37歳~40歳でも出産増加数は高い傾向にある

 

33歳、34歳では総治療数はそこまで突出して増加していませんが、出産増加数は大きく増加しています。これは年齢的に少ない治療回数で妊娠に至っている可能性が影響しているのかもしれません。

 

 

不妊治療の件数が減少すると言われていた話

 

2021年と2022年の総治療数の比較において、一定の増加傾向はみられましたが、おもっていたほど増加していない印象を受けた人もいるのではないでしょうか?

不妊治療の保険診療の話題が出る前の2018年、2019年頃から、不妊治療の総治療数はそろそろ減少に転じるのではないかと言われていました。

2019 2018 不妊治療総治療数比較

 

2018年と2019年を比較した場合、総治療数は37歳までは増加していますが、39歳以降は減少に転じています。その当時は、今後徐々に減少に転じる年齢が増えてくると予測されていました。

その理由に団塊ジュニア世代(第2次ベビーブーム世代)の年齢があげられています。
1970年から1974年を第2次ベビーブーム世代と呼び、総出生数が200万を超えていました(1970年は除く)が、これらの世代も徐々に45歳を超え、不妊治療を終結していきました。

女性人口の変化

人口のピークが徐々に右にずれていき、生殖年齢の人口が顕著に減少していっています。今後この人口減少はさらに加速していくことになります。

 

総治療数の増加が横ばいになりかけていた2019年と2022年のデータ比較を比較すると、2021年の比較よりも総治療数も出産数も増加しているのがわかります。

2019年 2022年不妊治療総治療数の比較

 

2019年 2022年不妊治療出産数比較

2021年に総治療数が大きく増加したわけ

 

2022ART治療周期数

 

2021年と2022年の比較において、想定したほど総治療数の増加がみられなかった要因に、2021年で既に治療数が増加していた点が挙げられます。

保険診療開始前であり、女性の人口推移からもよくて横ばいのはずの治療数が増加に転じたのはなぜなのでしょうか?

理由はいくつか考えられますが
・保険移行期間の暫定措置で助成金の増額された
・助成金の所得制限の撤廃があった

この2点が大きな理由としてあげられます。

また、2020年は新型コロナウィルスの影響で、移動規制や外出規制が出され、思うように不妊治療を実施できなかった人も少なくありませんでした。そのため、感染対策のために外出制限等の規制が出ない間に、不妊治療を進めてしまいたい人も少なくなかったように思います。

これらのことからも、保険適用前と保険適用後で不妊治療の総治療数を比較するのであれば、新型コロナウィルスや保険適用前の暫定措置の影響がない2019年と比較した方が良いのかもしれません。

2019年 2022年不妊治療総治療数の比較

 

2023年以降、不妊治療の総治療件数はどうなるか?

 

今後、不妊治療の総治療件数はどのように変化していくのでしょうか?

個人的には、2021年や2022年のような大きな増加はなく、横ばいもしくはわずかに微増ぐらいに留まり、数年後には減少に転じていくのではないかと予測します。

そもそも2022年は、初診の予約制限をかけていたクリニックも多くあり、マンパワー的な問題からこれ以上は患者を増やせないというクリニック側の事情も見え隠れしていたように感じます。そう考えると、2022年の総治療数が天井なのかもしれません。

2022年は助成金がリセットされたことで、既に助成金で不妊治療を終えていた人々が、保険によって不妊治療を再開したことも、総治療数が増えた要因のひとつになりました。

今後、回数制限の撤廃等があれば2022年のように総治療数が増加することがあるかもしれませんが、そのような動きがなければ、総治療数の大きな増加は見込めないと考えます。

また、不妊治療開始年齢が下がれば、妊娠に至るまでの治療回数も少なくなることが予測されるため、それに伴い総治療回数も減少していくのではないでしょうか?

と同時に、今後は妊娠・出産が可能な人口も減少していくため、2023年以降、不妊治療の総治療件数が大きく増加することはないと思います。

女性の人口変化

 

不妊治療の保険適用は一定の効果があったのではないか

 

不妊治療の総件数は、2021年と比較するとそこまで大きく増加したわけではありませんが、横ばいになりかけていた2019年と比較すると、大きく増加していることからも、不妊治療の保険適用は一定の効果があったのではないかと思います。

不妊治療の金銭的負担は非常に大きく、費用面から不妊治療を諦めていたカップルにとっては、不妊治療の保険適用は大きなサポートになりました。

ただ不妊治療に関する課題は、費用だけではありません。不妊クリニックの偏在により、近くで思うような治療を受けることが出来ない地域格差や、不妊治療と仕事の両立に関する課題などまだまだ山積しています。

子どもを望む人すべてが、不妊治療を受けやすい環境が整えられることを願ってやみません。

 

 

 

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