不妊治療と仕事の両立 個人ができることの限界

不妊治療と仕事の両立支援

個別相談でもよくご相談いただく、「不妊治療と仕事の両立」。ただし、この不妊治療と仕事の両立に関しては、個人でできることには限界があり、働き方や会社の制度、社内の理解度に依存する部分が非常に大きくなります。

この記事では、不妊治療と仕事の両立に関して、個人ができること、そして社会が取り組んでいかなければならないことについて解説します。

 

個人が不妊治療と仕事の両立のためにできること

当事者が、不妊治療と仕事を両立するためにどうすればよいのかと考えた場合、大きく3つに分類することができます。

・仕事と両立しやすいクリニックを選ぶ

・社内の制度等を利用して働き方を変える、周りに理解と協力を求める

・転職をする

 

仕事と不妊治療を両立しやすいクリニック選び

不妊治療と仕事の両立を考えた際に、最初に浮かんでくるクリニックの条件はこの3つではないでしょうか?

・遅くまで診療しているクリニックを選ぶ

・会社近くのクリニックを選ぶ

・通院回数の少ないクリニックを選ぶ

ただし、これらはクリニックを選ぶ際の最優先事項にはしてほしくない項目です。まずは治療方針や治療の選択肢、クリニックや医師、培養士の技術力で選ぶことが先です。(培養士の技術力は見えないことも多く、判断が難しいところですが…)

「遅くまで診療している」「会社から近い」など、通いやすさだけを優先した結果、実績や技術力が乏しく、治療選択肢が少ないクリニックしか選べないということも起こりえます。

治療選択肢が少ない結果、ただただ同じことを繰り返すだけで時間ばかりが過ぎてしまい、その結果、妊娠がかなわなかったり、選択肢なく繰り返す治療に精神的な面でつらくなったりして、治療を中断してしまう場合も出てきます。

また、地方の場合はそもそもクリニックの選択肢が少なく、「遅くまで診療しているクリニックを選ぶ」「会社の近くのクリニックを選ぶ」ということは難しいでしょう。そもそも、ある程度自由にクリニックが選べるのは一部の都市部に限られています。

「通院回数の少ないクリニックを選ぶ」というのは、ある意味では不妊治療と仕事の両立を考えれば合理的な選び方のように思えます。ただし、先述したように「通院回数の少ないクリニック」の治療方針が自分に合わなければ意味がありません。また、そのようなクリニックでは、もともと採卵できる個数を少なく設定している場合もあるため、なぜ通院回数を減らすことが可能なのか、治療方針をしっかりと確認することがまず大切です。

 

 

社内の制度等を利用して働き方を変える、周りに理解と協力を求める

こちらは後述しますが、そもそも社内制度や周りの理解は個人ではどうしようもできない部分が多くあります。今働いている企業に不妊治療と仕事の両立支援に関する制度が充実しており、制度を利用しやすい風土があり、人員も十分で、周りの理解も高く、お互いが協力し合える環境が整っていれば良いですが、そのような企業は、まだまだ少ないのが現状です。

形だけの制度はあるが使いにくい、不妊治療当事者のニーズに合っていない…というケースも少なくありません。

「周りに理解と協力を求めましょう」と周囲が言うのは簡単ですが、当事者にとっては不妊治療に加えて大きなストレスを抱えることにもなりかねません。

使いやすい制度や環境が整っていればよいですが、そうでなければ当事者が声をあげるのは、正直現実的ではありません。

 

転職という選択

不妊治療と仕事の両立支援制度が整っている企業に転職する、もしくは治療を優先した働き方を選択する(週3勤務などコントロールしやすい非正規雇用)という方法もあります。

ただし、不妊治療中に「不妊治療と仕事の両立支援制度が整っている企業」へ転職するというのは、そう容易いことではありません。また、治療を優先した働き方を選択した結果、正社員のポジションを手放してしまうのは、今の日本では正直お勧めできません。

不妊治療や妊娠・出産・育児などで一度正社員のポジションを手放してしまうと、その後に同等の条件で仕事を探すのは難しくなってしまいます。今までと同じ条件での再雇用は諦めるくらいの覚悟も必要かもしれません。

妊娠・出産後に再度正社員で働くことを考えているのであれば、正社員として再雇用してもらえるようなスキルや資格を持っていない限り、非正規雇用への転職は慎重になったほうが良いでしょう。

 

 

不妊治療と仕事の両立に社会が取り組むべきこと

「社内の制度等を利用して働き方を変える、周りに理解と協力を求める」でも記載しましたが、社内制度の整備や不妊治療と仕事の両立に関する周囲の理解や協力は、本来、個人が取り組むべきことではありません。企業や行政など、社会全体で取り組むべき課題です。

 

不妊治療と仕事の両立に必要な、企業での取り組み

では、不妊治療と仕事の両立のために、どのような取り組みが企業に必要となるのでしょうか?

大きく分けると以下の2点が必要です。

・その地域に合わせた、利用しやすい制度

・制度を利用しやすい社内環境

「とりあえず制度をつくりました」というような、ただ存在するだけの制度では正直意味がありません。時折見かけるのが「不妊治療休暇 年間5日」というもの。この年間5日間は、どのような治療の流れを想定して作られたのかと疑問に思ってしまいます。

確かに1回の採卵・移植で妊娠が可能な場合や、都市部で近くにクリニックがあり、フレックス勤務など柔軟な勤務体制であれば、年間5日間の休暇でも対応できるかもしれませんが、近くにクリニックがない、固定時間の出社が必要などの場合は、5日間の休暇なんてあっという間に終わってしまうでしょう。制度を策定するのであれば、両立に本当に必要な内容が整った制度でなければなりません。

場合によっては休暇日数よりも、在宅勤務やフレックスなど、柔軟性のある働き方を求めている場合もあります。

そして何より必要なのは、職場や上司、同僚の理解です。どれだけ立派な制度があっても、職場や上司、同僚の理解がなければ、その制度を利用することは簡単ではありません。形だけの制度にならないように、制度作成後は社内の理解を促進していく必要があります。

昨年、半年にわたって実施した不妊治療と仕事の両立に関するアンケートでも、「会社や上司の理解の有無」「在宅勤務やフレックスなどの柔軟な働き方の有無」「裁量性のある業務かどうか」といった項目において、両立率に差が出るという結果になりました。
(アンケート結果はまとまり次第ご報告させていただきます。)

不妊治療と仕事の両立は、個人の頑張りだけでは難しい点も多く、会社の考え方や方針に大きく依存します。

 

不妊治療と仕事の両立支援 行政としての取り組みの必要性

不妊治療と仕事の両立支援について主体的に取り組むべきは、基本的に企業ですが、企業任せにすると格差が生じてしまうのが現実です。特に大企業の場合、本社で内容が決定されることがほとんどで、地方の実情を考慮せずに一律で制度が設計されることもあります。

ただし、不妊治療と仕事の両立支援においては、都市部と地方とで求められる支援内容が異なります。地方によっては、高度生殖補助医療が受けられるクリニックが県庁所在地など一部の都市に限られていることも少なくありません。また、先進医療を考慮した場合、県外のクリニックしか選択肢がない地域もあります。

そのため、地方と都市部では不妊治療と仕事の両立支援において求められる内容が違ってくるのです。

だからこそ、地方の状況をよく把握している行政が、それぞれの地域に必要な取り組みを発信していく必要があります。不妊治療と仕事の両立は、すでに個人の問題ではなくなってきています。特に中小企業には、そのようなノウハウがないところがほとんどです。取り組みたくても、何から始めればよいのか悩んでいる企業もあるでしょう。今後は、そういった企業を行政が一緒になって支援していく必要があります。

地方の人口減少が恐ろしいスピードで加速する今、行政が主体的に取り組まなければ、制度と理解の整った都市部の企業に人材が集中してしまうことにもなりかねません。

 

 

最後に

不妊治療と仕事の両立は、個人だけではどうしようもなく、また病院のオペレーションですべてが解決できるわけでもありません。だからこそ、企業や行政が一丸となって取り組む姿勢が求められます。

とりあえずの制度や個人任せでは、今後は人材が集まらなくなり、将来を見据えると、都市部への人材流出がさらに加速していく可能性も出てくるでしょう。

今こそ、不妊治療と仕事の両立は個人の課題ではなく、企業や社会全体の課題として認識し、取り組んでいく必要があるのではないかと思います。

 

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