【妊活・不妊問題】 不妊治療成績が公表が必要な理由と問題点は?

現在、Twitterで多くの当事者が声を上げているこちら

#不妊治療の公正な成績開示を求めます

現在、不妊治療クリニックの成績開示は任意です。
今後は、専門医の数、治療種類、年間治療件数、治療費などの開示が義務化されます。
しかし、多くの当事者が望んている治療成績の開示は任意、そして年齢も35歳から39歳 統計の出し方も採卵当たりではなく胚移植あたりと、当事者がクリニックを比較するための情報としては全然足りていないのが現状です。

 

 

何を分母にするかによって治療成績の見え方は大きく変わってくる

 

不妊治療の治療成績を出すうえで、何を分母にするのかによって治療成績の見え方は大きく変わってきます。

例えば…(ここではわかりやすく周期数ではなく人数で表しています。数値は計算しやすく仮のものです)

採卵した患者   500名
胚移植できた患者 300名
妊娠した患者   100名
出産した患者   80名

当事者が知りたいことは何でしょうか?と言われれば、体外受精で出産できる割合、すなわり『採卵から出産に至った割合』だと思います。
上の人数で計算すると 出産した患者数/採卵した患者数×100になりますので、80/500×100=16%となります。

では実際に多くのクリニックはどのような計算方法で治療成績を開示しているのでしょうか?
多くのクリニックは、妊娠した患者/胚移植できた患者×100 で成績を出していますので、100/300×100=33%となります。

16%と33%…2倍近い数値が出てくるのです。

この数値はあくまでも仮につくった数値なので実際に2018年の産婦人科学会のART報告を見てみたいと思います。
実は産婦人科学会の出しているこの報告書は総治療数(採卵から)当たりの妊娠率が発表されています。

 

このグラフでは 出産した患者数/採卵した患者数×100(採卵からの出産率) が緑のグラフになります。 妊娠した患者/胚移植できた患者×100(胚移植からの妊娠率) が青のグラフになります。
グラフを見てもらっただけでも数値に大きな開きがあるのがわかると思います。

例えば38歳で2つの治療成績を比べてみると、採卵からの出産率だと約14%、胚移植からの妊娠率だと約34%、割合としては2倍以上の差があることがわかると思います。

 

では、なぜこのように数値に差が出てしまうのでしょうか?もう一度例に出した数値で説明したいと思います。

採卵した患者   500名
胚移植できた患者 300名

採卵からの出産率は500名という数値を分母に用いています。しかし胚移植からの妊娠率では300名という数値が分母になります。
その差の200名…この200名には、誘発したけど採卵できなかった人、採卵は出来たけど受精しなかった人、受精はしたけど分割が止まってしまって移植できなかった人が含まれています。

要は胚移植からの妊娠率で出すと、胚移植がスタートラインになってしまい、胚移植までたどり着けなかった人は数値上はいなかったことになってしまうのです。

でも、本来体外受精は採卵が(正確にいうと採卵誘発段階)スタートラインのはずです。
しかし、胚移植からの統計では胚移植がスタートラインになってしまうのです。

年齢とともに採卵できる個数も減り、移植できる胚まで成長する割合も減っていきます。
胚移植にたどり着けないということも往々にして出てきます。

 

だからこそ、採卵からの出産率は治療を考える上で非常に大切なポイントになってきます。

 

 

患者を誤認誘導する妊娠率の表記

そして実はこのルールが決まっていない妊娠率の出し方はどのようにでも利用することが出来ます。
(Twitterでも何人かの方が問題提起されていました)

例えば、良好なグレードの胚盤胞しか移植しないという独自のルールがあれば、そのグレードに達しない胚を破棄することも可能ですので、さらに胚盤胞移植にたどり着けるハードルを上げることになります。

その結果、先ほどの数値を使うと…

採卵した患者           500名
初期胚もしくは胚盤胞になった患者 300名
指定グレードの胚盤胞で移植した患者 150名
妊娠した患者           100名

指定したグレードの胚しか移植しなければ、妊娠率は67%という数値になります。
この67%という数値をHPに宣伝文句のように掲げることもできるのです。(さすがにここまでの数値を掲げているクリニックはみかけませんが…)

 

また、現在未婚女性の卵子凍結が選択肢の一つとして浸透しはじめていますが、28歳で凍結した卵子を43歳で使用する。
多分、今後普通に起こりえることだと思います。
この時に、妊娠率の出し方のルールを決めておかないと、28歳の卵子であるにも関わらず43歳での胚移植の妊娠率として統計上出すことも可能になります。

このように、胚移植あたりの妊娠率にすることでクリニックの都合のよいようにデータを出すことも残念ながら可能になってしまうのです。

 

 

成績を開示したら、高齢患者や難治症例患者が断られてしまうという問題

 

当事者が、成績開示の声を上げるたび、「成績開示は必ずしも患者にとって優位になるとは限らない」と言われますが、本当にそうなのでしょうか?

確かに高齢患者や難治症例の患者の不妊治療を対応すれば、治療成績は下がってしまいます。
確かにクリニックによっては受け入れを拒否することもあるかもしれません。

でも、もしかしたらそれが本来の姿なのではないかと思うのです。

0.3% 0.5%にも満たない出産率を知らされずに、治療に大金と時間を費やしているカップルがどれだけいるのでしょうか?
本来であれば、治療の終結を考えるタイミングなはずなのにそれを知らされず、わずかな望みにかけているカップルも少なくありません。

「患者が望む限り治療を続ける」とても聞こえの良い言葉ですが、しっかりと可能性を数値で提示しどこかで線引きをするのも、また医療の役割ではないかと思うのです。

確かに、治療の終結を告げられた時は当事者は混乱、困惑するかもしれません。
しかし、多くの人にとってそれはいつかやって来ます。可能性が1%以下の治療に何もしらずに、時間も大金も費やすのであればそれらを知るのは早い方が良いのではないかと私は思います。

知ったうえで、それでも治療を続けたいと思うのであれば治療が可能なクリニック(もしかしたら大学病院がそういう役割になるのではないかと思いますが…)で治療を続けるのも選択肢の一つですし、今後法整備されていくであろう第三者からの提供卵子や精子を使うということを選択するのも一つではないかと思います。

また、このタイミングで特別養子縁組という制度に繋がっていく事もあるでしょうし、治療終結に向けてのメンタルケアを望む人も出てくのではないかと思います。
クリニック内でのメンタルサポートまで難しいのであれば、各県に設置されている不妊専門相談センターを有効に活用していくべきなのだと思います。

そもそも高齢患者や難治症例患者が何も知らされずに、高額な治療費をクリニックに払い続けている今の状態の方が問題なのだと思います。

 

そして、何より患者が求めているのは可能性の低い治療を繰り返し行うことではなく、妊娠をすることを望んで高い費用と時間を費やしながらクリニックに通っているのです。

クリニックの成績を開示しなくていいのであれば、可能性の低い患者でも受け入れる。
でも、治療成績を開示しなくてはならないのであれば、可能性の低い患者は受け入れない。

そもそもこのような発言が平気で出てくることに驚きが隠せません。

では、なぜ今は可能性の低い患者を受け入れているのでしょうか?
患者が望むから?
それとも・・・

 

患者には知る権利、治療を選ぶ権利があります。
クリニック優位な治療成績の開示方法ではなく、当事者目線に立った治療成績の開示がされることを願っています。

 

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