【卵子凍結という選択肢③】卵子凍結と一緒に考えてほしい「リプロダクティブ・ヘルス・ライツ」について

2021年「卵子凍結」がここまで話題にあがった年は今までなかったのではないか?と思うぐらいに、「卵子凍結」が話題にあがりました。
しかしどれだけ「卵子凍結」が話題にあがっても「リプロダクティブ・ヘルス・ライツ」が話題にあがることはほとんどありませんでした。
リプロダクティブ・ヘルス・ライツとは…
リプロダクティブ・ヘルス
妊娠したい人、妊娠したくない人、産む・産まないに興味も関心もない人、アセクシャルな人(無性愛、非性愛の人)問わず、心身ともに満たされ健康にいられること。リプロダクティブ ・ライツ
産むか産まないか、いつ・何人子どもを持つかを自分で決める権利。
妊娠、出産、中絶について十分な情報を得られ、「生殖」に関するすべてのことを自分で決められる権利です。
果たして日本でこの「リプロダクティブ・ヘルス・ライツ」考えがどこまで浸透しているのでしょうか?
今年の1月にTwitterで行ったアンケート
リプロダクティブ・ヘルス・ライツ という言葉に関してどれだけ認知があるのか、アンケートにご協力いただければ嬉しいです。
不妊治療経験者はこれらの課題に向き合っている人も多く、他の方より認知が高いだろうという事で医療関係者と同じ区分に分類させていただきました。妊活、不妊分野の支援→— 笛吹和代@「あきらめない妊活」キャリアと不妊治療を両立させる方法 2月12日発売 (@wlsskazuyo) January 13, 2021
「リプロダクティブ・ヘルス・ライツ」という言葉の認知は医療関係者や不妊治療経験者以外で知っていると答えた人はたった16.8%でした。
性や生殖に関わる議論が多いTwitterでこの数値なのですから、他のSNSではもっと認知が低いのではないかということが予想されます。
本来なら「卵子凍結」はリプロダクティブ・ヘルス・ライツと一緒に語られるべきものではないかと思うのです。
そのような状態で、「卵子凍結」だけが独り歩きするのはいかがなものかと…
「卵子凍結」という選択肢については、メリット・デメリットをきちんと理解したうえで選択するのであれば賛成です。
ただ、「女性は子供を産んで当たり前」という風潮の中で「卵子凍結」を勧められるのはちょっと違うのではと感じるのです。
クリニックがどれだけ「リプロダクティブ・ヘルス・ライツ」に基づいて「卵子凍結」について説明しているか?
この1年間でいわゆる「社会的卵子凍結」を始める不妊クリニックが都市部を中心に増えました。昨年までは都内でもHPに公表して未婚女性の卵子凍結を行っていたのは数えるほどしかありませんでした。
しかし今年は、「このクリニックも未婚女性の卵子凍結始めたのだ…」とHPを見るたびに思ったものです。
がん生殖治療に関わる「医学的卵子凍結」は産婦人科学会が「妊孕性温存療法実施医療機関の施設」を認定しています。この認定にはいくつかの条件をクリアする必要があります。しかし、「社会的卵子凍結」には上記のような認定制度はありません。そのためすでに不妊治療を行っているクリニックであれば「社会的卵子凍結」を始めるハードルもさほど高くないでしょう。
今後「卵子凍結」が都市部から地方に広がっていくことを考えると2022年以降、「社会的卵子凍結」を始めるクリニックはもっと増えていくと思っています。しかし、これらのクリニックで「リプロダクティブ・ヘルス・ライツ」の考え方をもとに説明しているところはどれだけあるのでしょうか?
本来「卵子凍結」を考えるのであれば、最初に考えることは「産む・産まない」という点です。
しかし、多くの女性は「産むこと」を前提に「卵子凍結」をするのか?しないのか?を迫られているような気がしてなりません。
本来あるはずの「子を持たない」選択肢を見えなくされ、「若い間に卵子を凍結しておかないと、子供が欲しいと思った時に不妊で悩むことになりますよ」と不安ばかりを煽られているのが今の「卵子凍結ビジネス」なのではないかと思うのです。
確かに、今不妊治療をされている方の中には「20代後半、30代前半で卵子凍結という選択肢があれば…」と思っている方もいるでしょう。
でも、私も含めて多くの女性が「産むこと」が当たり前と幼いころから刷り込まされてきたのではないでしょうか?
だからこそ、クリニックで「卵子凍結」の説明をする際には、「産まない」という選択肢があることもきちんと女性に提示してあげてほしいと思うのです。
卵子凍結はまだまだ技術的に不安定な部分も少なくありません。
確実な技術ではないからこそ、ただやみくもに女性の不安を煽って「卵子凍結」に誘導するのは公平ではないなと感じます。
企業が「卵子凍結費用」を補助する前に「リプロダクティブ・ヘルス・ライツ」の考えを伝える必要性
メルカリ、ピンタレストなど「卵子凍結」の費用補助を行う企業も出てきました。「卵子凍結」を考えている当事者にとってはとてもありがたい制度であり、SNSでも好意的な反応がほとんどでした。
今後、福利厚生の一環として「卵子凍結」の費用補助を行う企業も増えてくるのではないかと思います。
しかし企業がこれらの費用を補助する目的は何なのかとふと考えることがあります。
単純に費用負担の軽減だけを考えて補助をしているのでしょうか?
正直なところ、企業が「卵子凍結費用」を補助することによって、産み時をコントロールしたいと思う企業も出てくるのではないかと思うのです。
このような考えに至る理由として、やはり「リプロダクティブ・ヘルス・ライツ」という概念が社会に十分に浸透していないという点があげられます。
「妊娠・出産・不妊」に関わることに関しては、どうしても当事者が考えるものという風潮がまだまだ社会に根強くあり、すでにその年齢を過ぎている世代にとっては「自分達には関係ないこと」となかなか興味を持ってもらえないのが現状です。
しかし、企業が「卵子凍結費用」を補助するのであればまずは社内で「リプロダクティブ・ヘルス・ライツ」という考え方を研修する必要があるのではないかと思います。
「産むか産まないか、いつ・何人子どもを持つかを自分で決める」権利があるということを「卵子凍結費用補助制度」導入前に、まずはきちんと理解してもらう。「卵子凍結費用補助制度」を進めるのはそれからです。
ここを疎かにしてしまうと、子を持つつもりがない人に「なぜ卵子凍結をしないのか?」や「卵子凍結しているから今は妊娠しなくていいよね」という事を平気で言ってしまう人も出てくるかもしれません。
またはっきりと言われなくても、暗黙の了解で会社の都合で妊娠・出産のタイミングをコントロールしようという企業も出てこないとは限りません。
実際に数年前には、新聞のコラムで「産休・育休は部署内で順番を決めて…」なんていう記事も掲載されていました。女性の産み時をコントロールしたい…と思う企業は、もしかしたら考えている以上に多いのかもしれません。
「卵子凍結」が少子化対策や女性の働き方推進に利用されないことを願う
今後ますます「卵子凍結」の選択肢は広まっていくでしょう。
最初にも書きましたが、メリット・デメリットをきちんと理解したうえで、女性自身が決め、選択するのではあれば「卵子凍結」という選択肢には賛成です。
ただし、あくまでも女性が主体的に決めることが前提です。
「卵子凍結」を勧める上で、「卵子の老化」など必要以上に不安を煽っているものも実際に少なくありません。
「卵子凍結」が少子化対策や女性の働き方に紐づけて語られることもあります。
しかし、本来この問題は切り離して考えるべきです。
社会が何も変わることなく、女性の負担だけで成り立つ「少子化対策や女性の働き方推進」に何の意味があるか?と思うのです。
「女性の社会進出が進み、子を望む年齢が高齢化したために少子化が加速している」
よく言われるセリフですが、本当にそうなのでしょうか?
女性が「産み・育てられると思う社会でない」と思うから産まない選択している人もいるのではないでしょうか?
根本にある原因に目を向けずに「卵子の老化」を少子化の原因にしている以上何も解決しないのではないかと思うのです。
だからこそ、世間のあおりのような言葉に不安を感じて「卵子凍結」を決めないでほしいなと思います
卵子凍結はあくまでも「自分のため」に行うものであり、社会のために行うものではありません。
「少子化対策や女性の働き方推進」は「卵子凍結」に頼るのではなく、社会の仕組みを変えて行っていくべきだと考えます。
「卵子凍結」という選択肢が少子化対策や女性の働き方推進に都合よく利用されないでほしい、「卵子凍結」は女性主体の選択肢であってほしいと思います。
JOICEPサイトには「自分の人生を自分で選択できる、そんなあたりまえをすべての人に」と書かれています。
とても当たり前のことなのに、この当たり前がかなわないのが日本の妊娠・出産を取り巻く環境なのではないかと思うのです。
「リプロダクティブ・ヘルス・ライツ」が置きざりになって「卵子凍結」という選択肢だけが独り歩きすることがないことを願うばかりです。
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