【卵子凍結という選択肢②】卵子凍結をすれば不妊予防につながるのか

ここ1、2年で「卵子凍結」という選択肢がかなり浸透してきました。

卵子凍結が注目を浴びたのは2016年から2018年の浦安市で行われた公的補助による卵子凍結事業でした。
あれから一度は話題的に下火になった卵子凍結ですが、ここ2年ほどかなりの盛り上がりを見せてきているなと感じます。

そして何より、「卵子凍結」が「不妊予防」という言葉とセットで語られることが増えてきました。

確かに不妊の原因の一つは「卵子の老化」です。
30代後半、40代で不妊治療を始めた人の中には、30代前半の間に卵子凍結をしておけばよかったと思われている人もいるかもしれません

でも不妊の原因は卵子の老化だけではありません。
20代、30代前半で卵子を凍結しておいたからと言って必ずしも妊娠できるとは限らないのです。

 

卵子以外の不妊の原因

不妊の原因は卵子だけにあるわけではありません。

不妊の原因を大きくわけると…
排卵因子、卵管因子、着床因子(子宮因子)免疫因子、男性因子とわけることが出来ます。
これ以外に原因不明というものもありますので、卵子の老化は排卵因子、若しくは原因不明に含まれることになるかと思います。

ここで、卵子凍結が有利になるのは「排卵因子」による不妊と原因不明に含まれる「卵子の老化」になります。
早発閉経の可能性が高い場合や、卵巣に疾患がある場合なども「卵子凍結」をしておくことで、妊娠につながる可能性があります。

また、卵管が詰まっているなど卵管が原因の不妊の場合は基本体外受精が適応となるため、年齢によっては先に採卵・凍結をしておくという選択肢もあります。

しかし、それ以外に不妊の原因(着床、免疫因子(不育症含む)男性因子)がある場合は卵子凍結をしておくだけでは解決しないのです。

 

卵子凍結は体外受精の過程の一部

体外受精の流れを簡単に書くと以下のような流れになります。

排卵誘発→採卵→受精→移植又は凍結保存→着床→妊娠→出産

未受精卵の卵子凍結は、排卵誘発→採卵→凍結保存という流れになり、体外受精の過程で考えると2つしか終わっていません。

妊娠したいと思った時に
未受精卵の融解→顕微授精→移植又は凍結保存→着床→妊娠→出産
という過程が残っているのです。

この過程に不妊の原因があれば、どれだけ20代や30代前半で卵子を凍結していても妊娠・出産に至ることが難しくなります。
そしてここで着床、免疫因子(不育症含む)男性因子が関係してきます。

 

例えば…

・精子のDNAになんらかの損傷があれば顕微授精で授精は可能ですが、その後に卵子の分割が止まることもありますし、移植しても妊娠判定までたどり着かないことがあります。

・子宮筋腫や子宮内膜ポリープがあったり、子宮腺筋症に罹患していたり、慢性子宮内膜炎などが影響して着床しないこともあります。着床はまだまだ分かっていないこともあり、良好胚を移植しているにも関わらず、妊娠に至らずに悩んでいる人もいます

・また、着床し妊娠判定が陽性になっても、その後にお腹の中で胎児の発育が止まる事があります。原因不明の場合も少なくありませんが、その中で不育症として原因がみつかる場合もあります。

 

卵子凍結を考える際は、不妊の原因は「卵子の老化」だけではないこと、他にも原因があることも知ったうえで卵子凍結を考える必要があります。

 

卵子凍結をする際のクリニック選びのポイント

だからこそ、卵子凍結をする際は採卵の技術だけではなく、その後の移植まで考えてクリニック選びを行う必要があります。

クリニックを選ぶ際は以下の点を考慮に入れながら選ぶことをお勧めします。

 

1. 日常の診療で高刺激の排卵誘発で採卵を行っている

卵子凍結は卵子の数が必要なため高刺激での排卵誘発が原則になりますが、通常の不妊治療は排卵誘発方法を低刺激若しくは自然周期で行っているクリニックもあります。
この場合、卵子凍結だけ高刺激の排卵誘発を行うことになります。
排卵誘発や採卵は医師の技量にも左右される点です。
出来れば普段の診療から高刺激の排卵誘発を行っているクリニックを選ぶのがお勧めです。

 

2. ある程度不妊治療の実績があるクリニックを選ぶ

都内と地方では治療件数にも大きな差があるため、一概に年間〇〇件以上とは言えないのですが、出来るだけ治療件数の多いクリニックを選ぶようにしましょう。
地方でも年間200件以上は不妊治療件数があるクリニックの方がいいでしょう。

 

3. 男性不妊・着床不全等に対応しているクリニックを選ぶ

30代半ばで凍結した卵子を使用する場合は、もし凍結した卵子で妊娠に至らなくても再度採卵して不妊治療をする選択肢もありますし、転院して別のクリニックで不妊治療を行う選択肢もあります。ただ40代で凍結していた卵子を全て使用した場合、再度採卵できるかどうか、採卵できても移植できる状態まで培養が進むかどうかはわかりません。中には厳しい場合もあるでしょう。
本来なら何度か移植をして、陰性を繰り返してから行う着床関連の検査も、凍結した卵子を使用する場合は年齢によっては先に済ましておいた方がよい場合もあります。

ただ、現時点ではすべてのクリニックで着床や男性不妊の検査を行っているわけではありません。何度か移植を繰り返せば妊娠すると考えている医師もいますし、受精卵が正常であれば妊娠するはずだと着床関連の検査をしないクリニックもあります。

卵子凍結の場合は再度採卵が難しい場合もあるため、事前に必要な検査が行えるクリニックを選ぶようにしておいた方がいいでしょう

 

4. 卵子の老化以外の不妊のリスクもきちんと伝えてくれるクリニックを選ぶ

先ほどから記載していますように、不妊の原因は「卵子の老化」だけではありません。
男性不妊・着床など様々な原因があります。
だからこそ、「卵子さえ凍結しておけば大丈夫」というクリニックはこの先、長い付き合いになることを考えるとあまりお勧めできません

 

5. 5年後、10年後まで責任を持ってくれるクリニックを選ぶ

凍結した卵子を利用するのは、5年後、10年後になります。
その時まである程度同じ方針で経営していそうなクリニックを選ぶようにしましょう。

未受精卵の卵子凍結は、融解させてから顕微授精をさせるため、通常の体外受精とは違う点があり、ノウハウやデーターの蓄積も大切になってきます。
だからこそビジネスチャンスとばかりに今の「卵子凍結ブーム」乗っかったクリニックではなく、長く本気で卵子凍結と向き合うクリニックを選ぶようにしましょう。

この点を見極めるのは難しいですが、何のために「卵子凍結」に取り組むのか?
そんなクリニックの姿勢からも判断ができるかと思います。
特に外部に保管を委託している場合は、外部の管理状況もきちんと把握しておくことをお勧めします。

 

卵子凍結は決して魔法の技術ではない

卵子凍結という選択肢は今後も広がっていくでしょう。
私自身は、メリット・デメリットを知ったうえで卵子凍結を選択するのであれば、卵子凍結という選択肢が広がる事自体には賛成です。

ただし、ここで注意してほしいのは「卵子凍結」がすでにビジネスに的に展開されているという点です。
ビジネス的に展開されることで、メリットばかりが誇張して伝えられているように感じてなりません。

卵子凍結すれば将来の妊娠が保証されるわけではありません。
だからこそ、とりあえず卵子凍結をすれば安心という考えは「危険」です。

もちろん卵子凍結を選択する時には様々な葛藤の中で少しでも妊娠の可能性を残したいという思いで凍結する人もいるでしょう。
しかし、人は気が付けば自分にとって都合の良い情報を探しがちです。

だからこそ、卵子凍結を考える時にはメリットばかりを伝えている内容だけではなく、デメリットや推奨しない理由にも目を通して最終的に判断してほしいと思います。

卵子凍結の結論が出始めるのは5年後、10年後です。
その時に後悔しない判断をしてほしいなと思います。

現在は卵子凍結のローンもあるようですが…
本当にローン組んでまで行う必要があるのかどうかは今一度冷静になって考えてほしいと思います。

現時点ではそれらを判断できるだけのデータはまだそろっていません。
そして卵子凍結が不妊予防につながるかどうかもまだわからないという事も知っておいてください。

 

 

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